[書誌情報] [全文PDF] (1437KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 92(11): 1583-1592, 1991


原著

汎発性腹膜炎の腸管血行動態からみた手術術式の選択に関する研究

久留米大学 医学部第1外科教室(主任:掛川暉夫教授)

細川 哲哉

(1990年10月17日受付)

I.内容要旨
汎発性腹膜炎の術後における縫合不全の発生は多臓器不全の要因となるため,消化管吻合を行うか否かの判断は重要である.そこで,汎発性腹膜炎を術前のshock score(ss)により,I群(ss≦1),II群(2≦ss≦4),III群(5≦ss)に分類し,組織反射スペクトル分析装置を用いて腸管血行動態の測定を行い,手術術式の選択について検討した.
1)腸管血行動態は,対照群の組織ヘモグロビン量(IHb)92.8±11.5,組織酸素飽和度(ISO2)50.1±6.7に対して,IHbはII群で114.3±19.0と上昇(p<0.01)し,ISO2はI群で40.6±6.5,II群で35.7±3.8と低下(共にp<0.01)した.
2)全身血行動態は,III群では心係数は5.3±1.2l/min/m2,全末梢血管抵抗は684.4±165.7dynes・sec・cm-5とhyperdynamic stateにあった.
3)酸素供給消費状態は,III群ではLactate/Pyruvate比は32.8±10.3,Base Excessは-9.3±9.5mEq/l, 2-3diphosphoglycerateは0.8±0.4mol/mlと低値を示し,強度の障害を認めた.
4)組織学的にはI群は軽度の浮腫を認めるのみであったが,II群は静脈の拡張および強度の浮腫を認め,血流鬱滞所見が著明であった.III群は動脈および毛細血管の拡張を認め,強度の充血所見を呈した.各群の縫合不全発生率は,I群0%,II群37.5%,III群100%であった.
以上より,汎発性腹膜炎の全身および腸管血行動態,酸素供給消費状態,縫合不全の発生率はshock scoreによる腹膜炎の重症度とよく相関し,手術術式の選択の指標として有用と考えられた.その際,2≦ss≦4では血流鬱滞による組織酸素飽和度の低下が縫合不全の一因子となり,5≦ssでは著明な酸素供給消費障害による組織障害が縫合不全の原因と思われ,後者の場合は二期的手術を選択すべきであると考えられた.

キーワード
汎発性腹膜炎, 腸管血行動態, 手術術式, 縫合不全, 組織反射スペクトル分析装置


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。