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日外会誌. 92(11): 1563-1570, 1991


原著

ヒト食道癌培養細胞株の樹立とその性状
ーとくに無血清培養の意義についてー

山口大学 医学部第2外科

村上 卓夫 , 中村 真之 , 草薙 洋 , 鈴木 敞

(1990年9月22日受付)

I.内容要旨
組織培養の重要性としては,それぞれの細胞が営む種々の生理的機能,物質代謝,細胞間相互作用,増殖,分化,老化,癌化などの機構を解明することにある.
我々は,食道癌患者より採取した腫瘍細胞を用いて,ヌードマウス皮下移植及びin vitroでの細胞株の樹立を試みており,今回樹立したYES-1,YES-2,YES-3細胞株について検討した.
臨床所見はそれぞれYES-1は50歳男性,低分化型扁平上皮癌,mp,n2(+),stage III,YES-2は81歳男性,中分化型扁平上皮癌,a3,n4, stage IV,YES-3は66歳男性,中分化型扁平上皮癌,a2,n4,stage IVであった.
YES-1及びYES-2は原発巣を細切し,一旦ヌードマウス皮下に移植し,腫瘤が増大したものを用い酵素処理した後に培養を開始した.
一方YES-3は癌性胸水より得られた腫瘍細胞を用い培養した.
これらの細胞は,組織学的にoriginalの細胞に似ているだけでなく,ヌードマウスに移植して形成させた腫瘍も極めて類似していた.またいずれの細胞も無血清培地での培養が可能となっており,また培養液中から種々の腫瘍マーカーが検出された.すなわちYES-1はTPA, SCCantigen, CEA.YES-2ではTPA, SCCantigen, CA125, CA19-9, SLX.YES-3ではTPAを検出した.
Doubling timeはYES-1は35.2時間,YES-2は22.9時間,YES-3は61.0時間であった.
対数増殖期にある細胞に0.04μg/mlのコルセミドを添加した後に, trypsin G-band法にて染色体分析を行った.各々50個の細胞の染色体数の分布とモードは,YES-1では47~54で51のmode,YES-2は53~62で60のmode,YES-3は48~52でmodeは50であった.
これら3株は形態学的にも,機能的にも食道癌の特徴を比較的よく保持しており,今後食道癌研究の有用な実験系になり得ると思われる.

キーワード
食道癌, 細胞株, 無血清培養, ヌードマウス

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