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日外会誌. 92(8): 964-973, 1991


原著

肝切除後における分岐鎖アミノ酸代謝動態に関する実験的研究

山形大学 医学部外科学第1講座

飯澤 肇

(1990年8月20日受付)

I.内容要旨
分岐鎖アミノ酸(BCAA)の有用性について検討するために,肝切除後におけるBCAAの代謝動態の変動について,70%肝切除ラットを用いて検討した.
肝切群においては対照群に比較し,血清総アミノ酸量が有意に高値を示した.これをBCAAとBCAA以外のアミノ酸に分けて検討すると,BCAAには両群間に有意差は認めないが,BCAA以外のアミノ酸が肝切群で有意に高値を示し,BCAAの相対的低下が認められ,肝切群ではBCAAが選択的に利用されていることが示された.そこでこれが基質として利用されているか否かを検討するために,主な代謝部位である肝ミトコンドリア(Mt)と骨格筋におけるBCAA代謝の律速酵素であるBCAA aminotransferase(BCAA-AT)および分岐鎖ケト酸脱水素酵素(BCKA-DH)の酵素活性を測定した.
肝Mtでは,BCAA-AT,BCKA-DHとも肝切群で有意に高値を示した.さらに,BCKA-DHと同様に分岐鎖ケト酸の酸化的脱炭酸反応を触媒するpyruvate dehydrogenaseおよびα-ketoglutaratedehydrogenaseを測定すると,前者は有意に低値で,後者は有意差はなかった.骨格筋ではBCAA-ATは肝切群で有意に高値であり,BCKA-DHは検出できなかった.以上より,BCAAの代謝経路が肝切群では特異的に賦活化されていることが示された.次にこのBCAA代謝の亢進とエネルギー代謝の関連を調べるために,肝Mtの酸化的リン酸化能について検討した.succinate,α-ketoisocaproic acidのいずれを基質にしても肝切群でstate 3の酸素消費速度,呼吸調節率,ATP生成能の亢進が認められたが,ATP生成能はα-KICを基質にした場合の方がより上昇が大きく,かつ長時間持続した.さらにADP/0比もα-KICを基質にした場合には上昇し,より共役した状態であることが示された.以上より肝切除後においてはBCAAはエネルギー基質として,より有効であることが示唆された.

キーワード
肝切除, 分岐鎖アミノ酸, ミトコンドリア

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