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日外会誌. 92(8): 957-963, 1991


原著

肝硬変合併肝癌切除後の血液稀釈状態下における循環動態とその肝機能に及ぼす影響

山形大学 医学部第1外科

石山 秀一 , 瀬尾 伸夫 , 飯沢 肇 , 布施 明 , 佐藤 淳 , 安達 和仁 , 塚本 長

(1990年8月6日受付)

I.内容要旨
肝硬変合併肝癌31例を対象に肝切除術後に生じる血液稀釈状態下の循環動態とその肝機能に及ぼす影響を検討し,この血液稀釈の許容範囲について考察した.肝切除術後3~4日目までにHt値は漸減して最低値となった.Ht値の変化と鏡面像を呈するように心指数は増加した.Ht値と心指数の間には負の相関(r=-0.45,p<0.001)があったが,Ht値と分時酸素消費量,乳酸値,動脈血ケトン体比の間には相関はみられなかった.血液稀釈の程度に応じて循環動態および肝機能の推移をみるために症例をHt値の最低値により3群(A群:25%≦Ht,B群:20%≦Ht<25%,C群:Ht<20%)にわけた.血液稀釈が起こってHt値が低下しても分時酸素消費量の低下,乳酸値の上昇はみられず各群とも組織での酸素需給状態は維持されていた.また,動脈血ケトン体比も術直後に一過性に低下するものの血液稀釈時にはむしろ上昇し,肝血流量および肝の酸素需給状態は維持されていたものと思われた.ただし,Ht値の最低値17.1%を示した症例では0.36と低下がみられた.GOT,GPTは手術の侵襲の程度に応じて上昇するが血液稀釈による増悪はみられなかった.総ビリルビン値はC群でA群,B群に比して高値を示し,一時回復した後,血液稀釈のみられる4~5日目に再上昇したため血液稀釈の影響が考えられた.しかし,無輸血例に限って検討するとこの差がなくなるため,C群の高ビリルビン血症は輸血によるものと考えられた.肝の蛋白合成能をrapid turnover proteinの推移でみると,B群とC群の間で7日目まではその推移にほとんど差はなかったが,14日目ではC群で低値を示す傾向があり,半減期の短いレチノール結合蛋白で大きな差がみられたことより,C群では14日目頃に蛋白合成能が低下していたことが示唆された.以上より肝切除術後に生じる血液稀釈状態はHt値が20%までは輸血を行わず安全に許容できるが,20%以下にはしない方が安全と考えられた.

キーワード
肝硬変合併肝癌, 肝切除術, 血液稀釈, 酸素需給状態, 循環動態

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