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日外会誌. 92(7): 867-873, 1991


原著

自家静脈 graft の de-endothelialization 及び re-endothelialization
ー基礎的,臨床的検討ー

旭川医科大学 第1外科(主任:久保良彦教授)

堀尾 昌司

(1990年8月17日受付)

I.内容要旨
自家静脈graft(AVG)移植後,内皮細胞(EC)を温存する上での調整条件,及び移植前後のdeendothelializationとre-endothelialization(re-E)の過程について検討した.
基礎的検討:雑犬の外頸静脈31本を生理食塩水(生食),ヘパリン加血液,アルブミン製剤,緩衝塩類溶液,膠原浸透圧を調整したアルブミン加緩衝塩類溶液の5種類の常温調整液中に浸漬し,直後~4時間後までの内膜変性状況を走査電顕にて観察した.次に,雑犬26頭の外頸静脈を拡張,生食に3時間浸漬後,腹部大動脈に自家移植し,3時間~3週間にわたりre-Eの過程を走査電顕及び光顕にて検討した.ECが形態学的に不可逆性変化を受けるまでの時間は,生食では約60分,ヘパリン加血液では約150分であった.膠質液群は晶質液群に比しECの保存状態が良好であった.移植後3~24時間では11/12graft切片(92%)でECの広範囲の脱落がみられたのに対し,弁表面では6/11弁(55%)でECが広範囲に温存されていることが確認された(p<0.05).ECの再生像は移植3日目より弁を中心に観察され,3週間でほぼ完全なre-Eが達成された.一方,弁洞の血栓形成が全graftの52%(32/61弁)に認められ,弁部狭窄が発生しやすい理由のひとつと考えられた.
臨床的検討:下肢動脈閉塞症にて移植されたAVG 35例について,吻合開始直前に採取した吻合部切片を走査電顕で観察した.66%(23/35)で高度のEC障害が観察され,術後1~46ヵ月の経過で2例に内膜肥厚によるgraft狭窄が発生した.一方,ECが良好に温存されていた群には発生がみられなかった.以上の結論として,AVGのre-Eはイヌでは通常3週間以内に完了し,弁はEC再生の起源として極めて重要な存在であることが確認された.またAVGの調整過程におけるECの温存は,内膜肥厚を防止する上で極めて重要な因子であり,そのためにはAVG採取から移植後血流再開までの時間を1時間以内にすべきと考えられた.

キーワード
autogenous vein graft, venous valve, re-endothelialization, graft stenosis

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