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日外会誌. 92(7): 831-836, 1991


原著

肝組織pHによる常温肝虚血限界の予測

東京大学 医学部第1外科

伊豆 稔

(1990年6月22日受付)

I.内容要旨
肝組織pHと肝ATPあるいは,肝energy charge(EC)との関係を調べ,肝組織pHが常温肝虚血後のラットの生死の予測に有用かどうかを検討した.硬変肝ラットはThioacetamideを投与して作成した.まず,門脈頸静脈シャントを作製し,肝門部で肝動脈,門脈を一括して血管クリップで遮断して肝虚血状態とした.次に正常肝ラットおよび硬変肝ラットの常温肝虚血前及び虚血後の肝組織pHを測定した.同時に肝虚血前及び虚血10,20,30分後の肝組織を採取してHPLCを用いて肝のadenine nucleotideを測定した.adenine nucleotideからenergy chargeを算出したところ,肝虚血後のpHの低下量(⊿pH)とECの低下率(⊿lnEC)には有意の正相関が認められ,⊿lnEC=-0.13+2.30×⊿pH(r=0.757, p<0.001, n=59)であった.そこで,肝組織pHは肝ECに代わってリアルタイムに,また,ダイナミックに肝のエネルギー状態を評価できる良い指標であると考えられた.
また硬変肝ラットを用いて15分から95分間に及ぶ常温肝虚血後のラットの生死をみたとき,肝虚血時間(T:分),KICG,ApH 10(肝虚血後10分間の肝組織pHの変化量)を用いた判別式Y=7.2×ApH 10+27.5×KICG-0.07×T-1.9(Y≧0:生存,Y<0:死亡)は77.8%の正判別率をあげた.この式から,K ICGが大きいほど,また,肝虚血後のpHの低下が速いほど生存の可能性が高く,虚血時間が長いほど死亡し易くなるといえた.肝組織pHは常温肝虚血後の肝エネルギー状態を反映するのみではなく,常温肝虚血後の硬変肝ラットの生死の判別にも有用であった.

キーワード
肝組織pH, 常温肝虚血, energy charge, KICG, ATP

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