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日外会誌. 92(6): 697-706, 1991


原著

動脈遮断肝に対する部分的門脈動脈血化の有効性に関する実験的研究

金沢大学 医学部第2外科(主任:宮崎逸夫教授)

前田 基一

(1990年6月26日受付)

I.内容要旨
肝門部胆管癌や胆嚢癌切除術における根治性を高める上で,肝十二指腸間膜全切除術の意義は大きいが,術後肝動脈閉塞に起因する肝不全の発生は重要な問題である.そこで肝動脈遮断時の対策として,部分的門脈動脈血化法すなわち門脈への動脈血流入を行い,その有効性について検討した.実験は,雑種成犬を用い,肝への側副血行路をすべて遮断し肝動脈を切離した群(肝動脈結紮群),さらに大腿動脈と門脈との間にバイパスを作成し,Biopumpにて送血量を100ml/minおよび200ml/minに調節した群(部分的門脈動脈血化-100ml/min群,200ml/min群),単開腹群の4群を作製した.各群について血液ガス分析,肝動脈血流量,門脈流量,門脈圧,肝energy charge,血液生化学値を測定し,各群の肝酸素需給動態と肝組織代謝を比較検討し,以下の結果を得た.
1)肝動脈結紮群では肝静脈血中CO2の蓄積とアシドーシスの進行,酸素供給量の60~70%におよぶ減少,酸素消費率の増加,GOT,GPTの著明な上昇が認められた.2)部分的門脈動脈血化群では肝への十分な酸素供給が可能で,肝動脈遮断にともなう肝静脈血のCO2の蓄積やアシドーシスの進行を抑え,正常に近い酸素需給動態と組織代謝を維持した.3)その流量はほぼ肝動脈流量に相当する100ml/min前後が適量であり,200ml/minでは本来の門脈流量を約50~60%にまで減少させ,門脈圧は180分後に22.1±1.7cmH2Oと著しく亢進し,GOT,GPTの上昇を認めた.
以上より側副血行路の遮断に加え肝動脈を結紮切離することは,肝に与える影響が大きい.これに対しバイパス流量100ml/minでの部分的門脈動脈血化法は,肝動脈および肝への側副血行路遮断時における肝酸素需給動態と組織代謝を良好に維持しえた.すなわち肝門部癌に対する肝十二指腸間膜全切除術において,術中及び術後早期の肝不全発生を防止する上で有用な方法であると考えられた.

キーワード
胆道癌, 部分的門脈動脈血化, 肝動脈遮断, 肝酸素需給動態, Energy Charge

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