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日外会誌. 92(6): 652-663, 1991


原著

迷切胃の発癌に関する実験的研究

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

山藤 和夫

(1990年6月23日受付)

I.内容要旨
胃迷走神経切離術(迷切)後の胃(迷切胃)の発癌リスクが迷切術式により異なるか,異なる場合その要因は何か,また胃切除術後の残胃の発癌リスクとの比較ではどうかを検討する目的で動物実験を行った.
Wistar系雄性ラットを用いて選択的迷切(SV)群,選択的近位迷切(SPV)群,幽門洞切除術・Billroth-I法再建(幽切)群,単開腹術(対照)群の4群を作製した.ラットにおけるSV,SPVの術式は独自に考案した.
減酸率はSV群は約85%,SPV群は50~60%,幽切群は100%であった.SV群とSPV群では同程度の胃内容停滞が認められたが,幽切群には胃内容停滞は認められなかった.
各群20匹ずつのラットを用いて,術後4週より18週間N-methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)83µg/ml水溶液を飲料水としてad libitumに与え,術後41週目に屠殺する方法で胃発癌実験を行った.屠殺時の血中ガストリン値は高い方から順にSV,SPV,対照,幽切群であった.腺胃を病理組織学的に検索した結果,幽門腺領域に種々の異型腺管巣の発生を認めたが,その深達度は癌と判定することが難しい粘膜内または粘膜下層までのものであった.そこで,これら異型腺管巣を粘膜内にとどまるものと粘膜下層へ浸潤しているものとに分け,後者は前者に比して発癌リスクの指標としての重みは大きいとする基準で各群の発癌リスクを比較した.その結果,SV群の発癌リスクは対照群に比して有意に高かったが,SPV群および幽切群の発癌リスクは対照群と差はなかった.
以上の成績より,発癌リスクという点ではSPVおよび幽切(Billroth-I法)は好ましい術式と考えられ,また迷切胃の発癌に関与している可能性のある因子としては胃液酸度の低下および高ガストリン血症に加えて胃粘膜の脱神経支配を挙げることができた.

キーワード
実験胃癌, MNNG, 胃迷走神経切離術, 残胃癌

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