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日外会誌. 92(4): 464-468, 1991


原著

長期保存心の再加温における段階的カルシウム増量法の効果
―ラット摘出心臓における実験的検討―

熊本大学 医学部第1外科(主任:宮内好正教授)

岩崎 秀一

(1990年3月27日受付)

I.内容要旨
長期保存心の再加温に際し,段階的カルシウム増量法の効果を摘出ラット心臓において検討した.ラットより摘出した心臓をランゲンドルフ装置にて37℃,80mmHgの定圧で,Krebs-HEPES(K-H)液で灌流を行った.左室内に入れたラテックス性のバルーンで左室収縮気圧(LVSP),左室拡張終期圧(EDP),左室容量一圧関係を記録し,心電図,冠灌流量(CFR)を測定した.対照実験後,心臓を低温室(15℃)に移し,3%のhydroxyethyl-starchを含む低Ca-Krebs-HES液で13mmHgの定圧灌流を行った.24時間後,再びランゲンドルフ装置に戻し,K-H液で再加温し,対照と同様に心機能を記録し比較検討した.再加温に際し,灌流液のカルシウム濃度を通常の2.5mMとした群と0.25mMから5分毎に0.25mMずつ増量し45分後に2.5mMとした群とを比較検討した.
再加温に際し,通常のカルシウム濃度液で行った場合,心臓は拘縮状態となった.これに対し段階的カルシウム増量法を行った群では心臓は自己心拍で次第に拍動を開始し,再加温45分後,心拍数は対照の約68%,LVSPは70%まで回復し,EDPは40mmHgと上昇した.左室容量一圧関係では,左室のコンプライアンスの低下を示した.CFRは対照の50%の回復であった.
結果は,長期保存心の再加温に際し,灌流液のカルシウム濃度を段階的に上げていく方法は,心拘縮を抑制し良好な心拍動の回復につながる方法であると考えられた.

キーワード
ラット摘出心臓, カルシウムoverload, 段階的カルシウム増量法, 左心機能, 再加温


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