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日外会誌. 92(4): 453-458, 1991


原著

PCRによる膵癌の Kirsten-ras oncogene の point mutation の解析

長崎大学 医学部第2外科(主任:土屋涼一教授)
1) 長崎大学 医学部腫瘍医学(主任:珠玖 洋教授)

元島 幸一 , 小原 則博 , 古井 純一郎 , 寺田 正純 , 角田 司 , 長田 康彦1) , 浦野 健1)

(1990年4月13日受付)

I.内容要旨
膵癌切除例38例の切除標本を用い,polymerase chain reaction(PCR)法より,Kirsten-rasのcodon 12のpointcmutationを検討した.89.5%の高率にK-rasのcodon 12にpoint mutationが認められ,他の悪性腫瘍では報告をみない高い頻度が示された.38例中,K-rasのcodon 12に2種類のpointmutationを認めたのが1例あった.GGTがGAT(aspartic acid)に変異したのが23例,GGT(valine)へ変異したのが8例,CGT(arginine)に変異したのが3例,TGT(cysteine)に変異したのは1例のみであった.このmutation typeの頻度は諸外国の報告と異なり,人種差,地域差が認められた.乳頭腺癌9例中3例に,管状腺癌では24例中1例にK-rasにpoint mutationがなく,X2検定で乳頭腺癌と管状腺癌間でのpoint mutationのない頻度について,有意差が認められた.膵癌のstage別やT因子ごとに各種mutationの発生頻度をX2検定したが,有意差を示す組み合わせはなかった.一方,N因子について,N(-)群とN(+)群間のaspartic acidの発生頻度について有意に,N(+)群で頻度が高かった.術後の再発形式が明らかな25例について,再発形式と2年以上生存した5例のmutation typeの頻度を検討すると,肝転移,癌性腹膜炎,リンパ節再発のいずれの再発形式ともaspartic acidの発生頻度には有意差があり,2年以上生存群のaspartic acidの発生率が低かった.膵癌38例中,K-rasのcodon 12のmutationがなかった4例のうち,管状腺癌には1例のみであった.残る3例中2例には著しい粘液産生が認められ,粘液産生膵癌と考えられた.この2例はいずれも長期生存しており,発生母地が異なることが裏付けられた.

キーワード
膵癌, Kirsten-ras, PCR


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