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日外会誌. 92(4): 441-447, 1991


原著

外傷後黄疸
―肝ミトコンドリア機能よりみた黄疸発生機序に関する考察―

帝京大学 救命救急センター

中谷 寿男 , 小林 国男

(1990年2月16日受付)

I.内容要旨
重度外傷後に黄疸を来す事は広く知られているが,溶血,血腫吸収,薬剤等がその原因と考えられていた.しかし,例えぽ循環の不安定な重症骨盤骨折に高度の黄疸が見られることから,肝臓の低灌流状態に基づく肝機能障害に際してビリルピン(Bil)負荷が増加することも重要な因子であろうと考えた.
1987年1月より2年7ヵ月余りの間に当センターに搬入された重度外傷患者の内,出血性ショックに陥り,大量輸血を要し,多量の血腫を形成する,のいずれかの受傷形態に該当して黄疸を来した症例を対象とし,これらを受傷後のBilの最高値によって,総Bil値8mg/dl以上の高度黄疸群(H)と,5mg/dl以下の軽度黄疸群(L)に分けた.これら2群の間で,ショックの重症度,肝逸脱酵素に加え,肝ミトコンドリア機能を反映する動脈血中ケトン体比を測定し比較した.
H(9例):L(28例)の比較では,受傷当初の出血性ショックの最低収縮期血圧は58:82mmHg(p=0.003),血圧80mmHg以下のショックの持続時間は225:20分(p<0.001),輸血量は9,188:2,914ml(p<0.001)であった.肝逸脱酵素では両群間に差はなかったが,動脈血中ケトン体比は受傷当初より黄疸発生に至る1週間の間,1日目0.64:1.31(p<0.001),3日目1.09:2.13(p=0.024),5日目1.05:2.36(p=0.001),7日目1.60:2.83(p=0.015)と常にH群で有意に低値を示した.また,抱合型Bilの割合は0.66:0.43(p<0.001)とHでより高かった.
これらより,肝細胞への多量のBilの負荷に対し,肝細胞内でBil代謝のうち最もエネルギーを必要とする抱合型Bilの毛細胆管への排泄過程が,受傷後の肝ミトコンドリア機能障害のために障害され,細胞内に蓄積した水溶性の抱合型Bilが血中へ再吸収されることが,外傷後の閉塞性黄疸類似の高Bil血症を来す要因であろうと考えられた.

キーワード
外傷後黄疸, 肝ミトコンドリア, ビリルビン, 動脈血中ケトン体比

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