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日外会誌. 92(4): 419-427, 1991


原著

直腸癌術前照射療法におけるリンパ節転移の研究

千葉大学 医学部第1外科学教室(主任:奥井勝二教授)

井上 育夫

(1990年4月17日受付)

I.内容要旨
下部進行直腸癌27例(照射群)に対し術前照射療法(42.6Gy)を施行し,そのリンパ節転移について非照射症例29例(非照射群)と比較検討した.すべての症例が術前(照射前)直腸内超音波法で壁深達度A1'以上と診断されたもので,両群間の進行度に有意差を認めなかった.リンパ節の検索を目的とした微粒子活性炭CH44を使用することにより微小リンパ節のひろい上げが容易となり,平均リンパ節検出数は非照射群48.6個,照射群54.2個と増加した.リンパ節転移率は非照射群51.7%に対し照射群25.9%と有意に減少し,n2,n3の遠位リンパ節転移症例も減少していた.リンパ節を大きさ別に3mm未満,3~6mm,6mm以上に分けてリンパ節転移度を比較した結果,非照射群3mm未満,4.5%,3~6mm 11.2%,6mm以上20.9%,平均9.3%であったのに対し,照射群では3mm未満0%,3~6mm 2.1%,6mm以上4.5%,平均1.3%と有意に減少し,照射群では3mm未満のリンパ節には全く転移を認めなかった.さらにリンパ節転移陽性例の平均リンパ節転移個数の比較では非照射群9.5個に対し,照射群2.9個と有意に少なかった.転移陽性リンパ節にみられた癌細胞には核の濃縮・空胞化,腺管の崩壊,囊胞化・硝子化など種々の組織学的照射効果が認められた.またリンパ節連続切片による検討では癌胞巣が術前照射によって崩壊消失してゆく所見もみられた.以上より下部進行直腸癌に対して術前照射を併用することにより,リンパ節転移の減少に伴う局所再発の低下や予後の向上が期待され,機能温存術式の適応となる症例の増加が示唆された.

キーワード
直腸癌術前照射療法, リンパ節転移率・転移度, 壁深達度の改善, 微粒子活性炭, 機能温存術式

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