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日外会誌. 92(3): 281-287, 1991


原著

食道癌術後患者の Quality of Life に関する検討

鹿児島大学 医学部第1外科

野口 靖彦 , 馬場 政道 , 中野 静雄 , 福元 俊孝 , 吉中 平次 , 愛甲 孝 , 島津 久明

(1989年9月27日受付)

I.内容要旨
食道癌切除を施行した343例中,1年以上生存中の79例を対象とし,術後のquality of lifeをアンケート調査(回収率100%)により評価した.約9割の症例が食欲良好で米飯を摂取し,69%が食事の摂取量にも満足していたが,食事の通過障害,腹痛,下痢などの消化器症状を約4割に認めた.術後に咳や痰がでやすくなった症例を57%に,階段を3階以上昇れない症例(息切れあり)を約20%に認め,反回神経麻痺症例の32%,麻痺なし症例の5%が現在も日常会話に苦労していた.反回神経麻痺を含めた呼吸器症状は3領域郭清例や70歳以上の症例に高頻度に認められた.これらの身体症状は,経口摂取の改善という機能回復状況あるいは手術による機能障害の状況を反映するものであり,治療を行う側からみて最も重要なquality of lifeの構成要素である.術後の精神状態では約3割に抑うつ傾向が認められ,就業状態ぱ56%の症例が仕事量を減らすなどして社会復帰していた.治療を受ける側にとっては,身体症状に加えてこれらの精神状態の改善や社会復帰の可能性も切実な問題であるがなお十分に満足すべき成績が得られるに至っていない。
食欲,食事の摂取量performance status(PS)は術後経過年数が進むにつれて有意に改善したが,70歳以上やstage IVの症例の成績は不良であった.右開胸症例ではPS,精神状態,仕事への復帰状況に関して,また左開胸あるいは後縦隔経路症例では身体症状について良好な成績が得られた.3領域郭清例でぱ,全例PS0~1であったが,身体症状,抑うつ傾向,仕事への復帰状況は従来の郭清例に比べて不良であり,3領域郭清により食道癌患者のquality of lifeにマイナスの効果がもたらされるものと考えられた.したがって,3領域郭清や積極的な外科治療を行う場合には,術後のquality of lifeを十分に念頭において対処することが重要である.

キーワード
食道癌術後のアンケート調査, 食道癌術後の quality of life, Performance status, 反回神経麻痺

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