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日外会誌. 92(3): 257-265, 1991


原著

アドリアマイシンを封入した抗ヒト α-fetoprotein モノクローナル抗体結合リボソームを用いた targeting chemotherapy に関する実験的研究

慶鷹義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

鈴木 啓一郎

(1990年3月6日受付)

I.内容要旨
アドリアマイシン(以下ADM)を封入した人工脂質膜小胞であるリボソーム表面に抗ヒトα-fetoprotein(以下AFP)モノクローナル抗体を結合させたLip-ADM=Abは,ヌードマウス皮下に移植したAFP産生性腫瘍に対して抗原選択的抗腫瘍効果増強作用を現すとともに,肝へのADM高濃度集積をきたす.これらの性質を原発性あるいは転移性肝腫瘍の治療に応用するべく,ヌードマウス継代AFP産生性ヒト肝癌株Li-7をヌードマウスの肝臓へ手術的に移植する実験モデルをつくり,Lip-ADM=Ab静脈内投与によるADMの生体内分布および抗腫瘍効果を検討した.
ADM単独(以下free ADM),抗体非結合ADM封入リボソーム(以下Lip-ADM),およびLip-ADM=AbをADM量として7.5mg/kg静脈内投与後12時間の腫瘍組織内のADM濃度は,Lip-ADM=Ab群が他2群に比し有意の高値を示した.一方,心臓では逆にLip-ADM=Ab群におけるADM濃度は,free ADM群のそれより明らかに低く,本剤型の抗腫瘍効果増強と心毒性軽減が期待された.
抗腫瘍効果は,腫瘍移植後15日目より4日毎3回薬剤を投与し,25日目に腫瘍を摘出し検討した.投与剤型ごとのADM投与量は,あらかじめ実施した毒性実験を基に決定した治療的最大耐量としてfree ADMは5mg/kg,Lip-ADMとLip-ADM=AbはADM相当量7.5mg/kgとした.摘出時の実測腫瘍重量(M±SD)は,Lip-ADM=Ab群250.8±214.4mg,free ADM群508.5±295.3mg,Lip-ADM群723.8±380.5mgであり,Lip-ADM=Ab群の著明な抗腫瘍効果増強が示された.
実験中の体重変動および実験終了時の脾重量を指標として3剤型の毒性を比較すると,体重減少に差異を認めなかったが,脾重量ではfree ADM群が最も減少し,リボソーム封入によるADM毒性の軽減がもたらされた.
以上の実験成績は,Lip-ADM=AbがAFP産生性肝腫瘍患者に対する優れた治療法となりうる可能性を示唆するものと考えられた.

キーワード
抗ヒト AFP モノクローナル抗体, アドリアマイシン封入リボソーム, 肝内移植腫瘍モデル, ミサイル療法

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