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日外会誌. 92(2): 144-149, 1991


原著

肝硬変症における創傷治癒障害
ーDAB 肝硬変モデルにおける創部に浸潤するリンパ球の役割についてー

東京大学 医学部第1外科学教室
*) 現在,日本赤十字社医療センター 消化器外科

槇島 敏治*) , 斎藤 英昭 , 森岡 恭彦

(1989年6月8日受付)

I.内容要旨
肝硬変症患者では術後に創傷治癒障害を伴いやすい.そこでDAB肝硬変ラットをもちいて肝硬変症の創傷治癒に及ぼす影響を創部の炎症反応と免疫機能の面から検討した.
Wistar系雄性ラットにdimethylaminoazobenzene(DAB)配合飼料を4週間投与して肝硬変を作成した.エーテル麻酔下に全長2cmの開腹と閉腹を行ない,5日後に創部のリンパ球浸潤数,コラーゲン量および耐圧と細胞性免疫能の指標としてdinitrofluorobenzene(DNFB)に対する耳介の遅延型過敏反応を測定した.
創部のリンパ球浸潤数,DNFBに対する耳介の腫脹率は肝硬変ラットで有意に低下しており,創部と耳介のリンパ球浸潤数には正の相関がみられた.また創部のコラーゲン含有量と耐圧も肝硬変ラットで有意に低値であった.さらに創部のリンパ球の浸潤数コラーゲン量および耐圧の間には有意の相関が認められた.
これらの結果から,肝硬変ラットでは術後の創部の炎症反応が抑制されており,細胞性免疫反応が低下していることが示された.またコラーゲン量や耐圧が低下していたことから,肝硬変ラットでは生化学的にも,また物理的強度の点でも創傷治癒が障害されていることが示された.
以上から,肝硬変ラットでは細胞性免疫能の低下が存在し,手術創部のリンパ球の浸潤数が減少するため,炎症反応の程度が低く,そのためコラーゲンの産生が低下して創部の物理的強度が低下するという一連の創傷治癒障害の機序が考えられる.
したがって免疫賦活作用をもつ薬剤の投与によって肝硬変生体における免疫機能の障害を改善できれぽ,創傷治癒を高めることも可能であると考えられる.

キーワード
DAB, 肝硬変症, 創傷治癒, 細胞性免疫, 耐圧


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