[書誌情報] [全文PDF] (4137KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 91(12): 1778-1783, 1990


原著

転移性肝癌肝切除例における肝内微小転移巣の存在およびその意義に関する検討

千葉大学 医学部第1外科
*) 千葉大学 医学部第2病理

磯野 敏夫 , 宮崎 勝 , 中島 透 , 奥井 勝二 , 近藤 洋一郎*)

(1989年10月16日受付)

I.内容要旨
転移性肝癌の切除肝について肉眼的転移巣周囲の微小転移巣の有無を病理学的に検討した.検索対象は区域切除以上の行なわれた23例で,原発巣は胃癌4例,大腸癌18例,乳頭部癌1例であった.微小転移巣を組織学的に肉眼的転移巣との連続性がなく,かつ直径1mm以下と定義し,肉眼的転移巣が最大となるスライス面で切り出し同一平面の全区画につき鏡検し,以下の結果を得た.
23例中8例34.8%に微小転移巣を認めた.微小転移巣の大きさは0.2~1.0(0.52±0.35)mm,微小転移個数は1~19(4.1±5.95)個であった.肉眼的転移巣から微小転移巣までの距離は2.0~29.0(10.33±10.06)mmで,微小転移巣の存在部位が肉眼的転移巣と明らかに異なる亜区域と思われる部位に存在する症例が,3例37.5%に認められた.また,微小転移巣は8例中7例87.5%が門脈内に,肝静脈・類洞内に各々1例ずつ認められた.肉眼的転移巣の病理組織像INF,v-因子,分化度の違いと,微小転移巣の出現頻度との間には,v-因子でv3症例がその他の群に比し(p<0.05)微小転移巣を高頻度に認めた.しかし肉眼的転移巣の大きさ,個数,転移時期の違いと微小転移巣の有無には明らかな関係は認められなかった.また残存肝再発率は微小転移巣(+)群4/8例50%に比し(-)群では5/15例33.3%であった.
以上の結果より,術前より微小転移巣を予測することは現時点では困難であるにもかかわらず,切除可能な肝転移例の約1/3の症例には29mm以内に経門脈性の微小転移巣が存在することより,surgical marginとしては3cmは必要で,転移性肝癌の術式としては,surgical marginの少ないwedge resectionではなく,区域切除以上の肝切除が妥当と思われる.しかし広範囲肝切除術を施したとしてもなお門脈内の微小転移巣の遺残による残肝再発の可能性は十分考えられるので,これら微小転移巣に対する術後の強力な抗癌療法が予後向上には必要と考えられた.

キーワード
転移性肝癌, 微小転移巣, 肝切除術

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。