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日外会誌. 91(10): 1608-1616, 1990


原著

多変量解析を用いた肺癌の核 DNA 量の予後因子としての有用性について

*) 大分県立病院 胸部血管外科
**) 大分県立病院 病理

山岡 憲夫*) , 内山 貴堯*) , 君野 孝二*) , 赤嶺 晋治*) , 松尾 聡*) , 辻 浩一**)

(1989年9月26日受付)

I.内容要旨
非小細胞肺癌の切除210例に対しFlow cytometryを用いパラフィン包埋ブロックより核DNA量の解析を行い,臨床病理学的事項との関連性を検討するとともにCoxの比例ハザードモデルによる多変量解析を用い,核DNA量の予後因子としての有用性について検討した.
1)肺癌210例中DNA aneuploid例の出現頻度は77.2%と高率であり,進行癌やリンパ節転移陽性例に有意に高率であった.
2)他病死を除く179例で核DNA量と予後の関連性をみると,5生率はDNA aneuploid例138例33%,DNA diploid例41例78%と前者は後者に比べて有意に(p<0.001)不良であり,1期79例,絶対治癒切除85例に限定して検討しても同様に有意に(p<0.05)不良であった.
3)Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析の結果,DNA ploidyはβ値1.094,その危険率p=0.0000と有意の独立した予後因子であることが判明した.また,その予後因子としての重要性は病期や手術根治度やリンパ節転移の有無よりは低かったが,しかし,絶対的治癒切除例に限定するとDNA ploidyは最も重要な予後因子であった.
4)核DNA量解析ではDNA ploidyはDNA Index値より優れた予後因子であった.
以上より,非小細胞肺癌切除例ではDNA ploidyは従来の臨床病理学的因子とは独立した新しい予後因子として有用であり,特に比較的早期症例で最も重要な予後因子であり,従来の組織レベルにこの細胞レベルの評価を加味すればさらに確実な予後評価に結び付くと考えられた.また,DNA aneuploid例はDNA diploid例に比べて有意に予後不良であり,絶対的治癒切除例でもDNA aneuploid例は再発死亡が多く認められ,術後は十分なる補助療法を考慮すべきと考えられた.

キーワード
肺癌, 核 DNA 量, 予後因子, Flow cytometry, Cox の多変量解析


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