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日外会誌. 91(8): 950-958, 1990


原著

腹部刺創に対する選択的保存療法の検討

日本医科大学 救急医学科(主任:大塚敏文教授)

小関 一英

(1989年7月6日受付)

I.内容要旨
1975年から1988年までに経験した202例の腹部刺創を対象とし,以下の臨床的検討を行った.(1)損傷形態の分類(I型:腹膜穿通なし,IIa型:腹膜穿通あるも臓器損傷なし,Ilb型:臓器損傷あるも修復不要,III型:修復を要する臓器損傷)を行い,受傷原因・凶器・刺創部位との関連を調べた.(2)開腹適応所見と各種補助診断法の信頼性を,不要な開腹術(UNLと略)となる頻度によって比較した.(3)強制的開腹(mandatory exploration)を治療方針とした前期(1975~1980年:76例)と,選択的保存療法(selective conservatism)を方針とした後期(1981~1988年:126例)とに分け,治療成績を比較した.(4)日米間の損傷形態の違いを文献集計(本邦591例,米国1,819例)によって比較した.
その結果,(1)包丁損傷,傷害,下胸部・心窩部・切腹型刺創は,III型となる頻度が統計学的に有意に高かった.損傷形態の比率は,I型12%,II型26%,III型62%であった.(2)吐血血尿・循環不安定・腹膜炎徴候の3者は,UNL率が低く,開腹適応としての信頼性が最も高かった,大網脱出および腹膜穿通所見は,開腹適応としての信頼性は最も低かった.腹膜非穿通の証明には,刺創路造影法よりもlocal wound exploration法が有用であった.腹腔穿刺洗浄法は,偽陽性率・偽陰性率ともに高く,有用とは思われなかった.(3)治療方針の変更により,UNL率は32%(前期)から14%(後期)に減少した(p<0.01).ただし,後期において,診断遅延による敗血症併発例を1例経験した.(4)本邦救急医療専門施設では,米国に比べ,I型が少なく,III型の頻度が極めて高いことが推察された.
選択的保存療法を適用するに際しては,診断遅延の危険性を増大させないことが肝要であり,治療成績の比較に際しては,UNLの許容率(15%以下)を設定すべきである.

キーワード
腹部外傷, 刺創, 損傷形態, 治療方針, 手術適応

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