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日外会誌. 91(8): 923-930, 1990


原著

高齢者手術例に対する術前評価としての骨塩量測定の意義

横浜市立大学 医学部第1外科
*) 平塚共済病院 外科

杉野 公則 , 呉 吉煥 , 白石 龍二 , 岩崎 博幸 , 佐藤 秀之 , 熊本 吉一*) , 松本 昭彦

(1989年9月14日受付)

I.内容要旨
近年,平均寿命が延び高齢者に拡大手術が行なわれることも稀ではなくなった.しかし,歴年齢と生年齢がくいちがっている症例もみられ,生年齢の評価方法に一定のparameterが存在しないのが現状である.骨塩量は経年的に減少することがわかっている.一方,骨粗髪症に免疫能異常を認めるといわれていることから,骨塩量低下が免疫能低下を示唆している可能性もある.骨塩量が,高齢者の術前の生年齢評価の指標になるか否かを免疫能の面から検討した.60歳以上の術前症例,54例につき検討した.21例の健康な男女を対照群とした.骨塩量の評価にはquantitative CT法により第3腰椎の骨塩量を測定した.骨塩量正常群は25例,平均年齢は72.3歳で,平均骨塩量は125.3mg/cm3である.一方,骨塩量低下群は29例,平均年齢は74.1歳で,平均骨塩量は30.7mg/cm3である.各骨塩量を同性,同年齢の標準骨塩量で除した値は,年齢,性別を加味したparameterと考えられ,BMC indexとした.BMC indexは,骨塩量正常群は全例0.8以上,骨塩量低下群は全例0.8以下であった.免疫能の評価は,末梢血リンパ球サブセット,リンパ球幼弱化反応およびinterleukin 2産生能を測定した.骨塩量低下群は,骨塩量正常群および対照群と比較して,リンパ球サブセットOKT3が低下し,OKT6およびOKT3一(OKT4+OKT8)で表される幼弱なリンパ球が増加していた.また,リンパ球幼弱化反応,interleukin 2産生能においても骨塩量低下群は,骨塩量正常群,対照群と比較して有意に低下していた.OKT3,OKT6,OKT3一(OKT4+OKT8),リンパ球幼弱化反応およびinterleukin 2産生能とBMC indexの間には,それぞれ有意な相関が認められた.以上より高齢者手術例において術前のBMC indexが,0.8以下の症例は免疫能低下が示唆され,術後感染症には注意を要すると考えられた.

キーワード
高齢者手術例, 耐術能, 骨塩量, 免疫能


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