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日外会誌. 91(6): 749-759, 1990


原著

111In標識多核白血球を用いたARDS発生機構に関する実験的検討

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

壺内 泰二郎

(1989年8月4日受付)

I.内容要旨
過大な外科的侵襲後に発生する重篤な合併症である成人型呼吸窮迫症候群(adult respiratory distress syndrome:ARDS)の発生機序の解明を目的として,多核白血球(polymorphonuclear leukocytes:PMNs)の役割に着目し,ラットのエンドトキシンショックモデルを用いた実験的検討を行なった.従来の報告では,エンドトキシンショック時のPMNsの肺への集積はエンドトキシン投与後かなりの時間を経過しなければ検出できなかったが,111In標識多核白血球(111In-PMNs)を用いることにより,エンドトキシン投与後1時間で肺への集積を確認することが可能であった.さらに,シンチレーションカメラを用いた動態イメージングの検討で,エンドトキシン投与直後に肺への集積の増加が認められた.臓器別の体内動態の検討では,エンドトキシン投与後の111In-PMNsの集積の増加は肺でのみ認められ,心,肝,脾,腎ではエンドトキシン非投与の対照群との差を認めなかった.エンドトキシン投与によりラットの補体系はcommon pathway,alternative pathwayの両方が活性化されるが,alternative pathwayが特に強く活性化されることが確認された.またcobra venom factorを予め投与して補体系を抑制しておくと,臓器摘出実験においても動態イメージングの検討においても,エンドトキシン投与後の111In-PMNsの肺への集積は認められなかった.さらにステロイドとしてmethylprednisoloneを投与した動物でもエンドトキシン投与後の111In-PMNsの肺への集積は抑制された.すなわち,エンドトキシンショック時のARDSの発生には,補体系の活性化と関連したPMNsの肺への集積が重要な意味を持ち,しかも,この一連の変化はエンドトキシン投与後かなり早期に起こることが明らかにされた.また,ステロイドの投与はPMNsの肺への集積を抑制することから,ステロイドによるARDS治療効果の機序の一端が解明された.

キーワード
ARDS, 111In 標識多核白血球, エンドトキシンショック, 補体, ステロイド

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