[書誌情報] [全文PDF] (3610KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 91(5): 594-604, 1990


原著

大量肝切除後の肝血行動態に関する実験的研究
ーグルカゴン投与の効果についてー

自治医科大学 消化器一般外科(指導:柏井昭良教授)

住永 佳久 , 安田 是和

(1989年5月29日受付)

I.内容要旨
肝血行動態におよぼす肝切除の影響とグルカゴン投与の効果について実験的に検討した.
雑種成犬を開胸開腹し,大動脈起始部,肝動脈,上腸間膜動脈,門脈に電磁流量計を装着しておのおのの血流量を測定した.また肝動脈圧,上腸間膜動脈圧,門脈圧,閉塞肝静脈圧を同時にモニターし各部位での血管抵抗を算出した.肝切除術は対照(以下I群),40%肝切除(同II群),70%肝切除(同III群)の3群とし,グルカゴン10μg/kgを静脈投与してその効果を観察した.
切除後2時間では,肝動脈血流量に門脈血流量を加えた肝血流量(ml/min/kg)はI群25.0±13.7,II群28.7±9.8,III群15.5±5.8となり,大量肝切除のIII群では肝血流量は他の2群に比べて有意に減少した.犬の肝血行動態に与えるグルカゴンの影響は,主に上腸間膜動脈の血管抵抗の減少と血流量の増加であり,この結果門脈血流量は増加するが,肝切除後のグルカゴン投与による肝血流量の増加率(%)はI群167.2,II群147.0に対して,III群122.7であり,大量肝切除群では有意に低値を示した.残存肝重量当りの肝血流量(ml/min/肝100g)はI群79.4±20.8,II群160.5±36.5,III群221.9±25.3で,肝切除の程度により残存肝重量当りの肝血流量は有意に増加し,これはグルカゴンを投与しても同様であった.このときIII群では,II群,I群に比べて門脈血管抵抗は有意に上昇した.門脈血管抵抗を類洞の前後で分けて検討すると,類洞後血管抵抗は肝切除の程度に応じて増大した.
以上より大量肝切除後の肝血流量低下は,肝容量の減少による血管床の減少とともにpost-sinusoidal blockによる門脈血管抵抗の増加が大きな要因であると考えられた.

キーワード
肝血行動態, 肝切除, グルカゴン, 門脈血管抵抗

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。