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日外会誌. 91(3): 360-372, 1990


原著

Ileo-jejunal transpositionの小腸粘膜組織像 腸管グルカゴンおよび消化吸収機能に与える影響に関する実験的検討

東北大学 医学部第1外科(主任:松野正紀教授)

戸田 守彦 , 佐々木 巌 , 内藤 広郎 , 舟山 裕士

(1989年5月17日受付)

I.内容要旨
遠位回腸を空腸上部に有茎移植するileo-jejunal transposition(IJT)およびsham operationをイヌに作成し,腸管グルカゴンの変動および小腸粘膜組織像の変化について検討した.またIJTの作成前後で小腸内をグルコースおよびグリシソにて灌流した時の小腸誘発電位(PD)を測定し,次の成績を得た.
1)IJT後は5週,12週,6ヵ月目に空腹時および食事負荷後のhyperenteroglucagonemiaが認められた.しかし,術後6ヵ月目の反応は反応ピーク値が5週,12週目に比べ約1/2に低下した.術後5週食事負荷後60分における血漿のtotal-GLIゲル濾過パターンはglicentinに相当する分画で主なピークを形成した.Sham群では血漿total-GLIおよびGI値は術前後で差を認めなかった.
2)組織学的検討ではIJT施行後14週で小腸全体の著明な粘膜厚の増大とCrypt/Villus比(Cryptdepth/Villus height)の上昇が認められたが,後者はいずれも平均値が1以下を示した.一方,Villuswidthに関しては,IJT群はSham群,Control群と差異を認めなかった.
3)小腸誘発電位の検討では術前の100mM ⊿PD,⊿PDmaxは空腸に比べ回腸で高く,とくにL-グリシン灌流時の100mM ⊿PD, ⊿PDmaxは空腸に比べ回腸で有意に高かった.IJT術後5週において,間置された回腸でのD-グルコース灌流時の100mM⊿PD,⊿PDmaxは術前に比べ有意の低値を示し,術前正常犬における空腸D-グルコース灌流時の100mM⊿PD,⊿PDmaxに近づく傾向を示した.
以上の成績より,IJTにおいては小腸粘膜の内腔方向へ縦方向の肥厚増殖が発生し,また間置回腸の消化吸収機能についてもadaptationが生じることが確かめられた.この小腸粘膜の組織学的変化および機能的変化の発生機序には,enteroglucagonのsystemicな作用が関与する可能性が示唆された.

キーワード
大腸全摘, 短腸症候群, 腸管グルカゴン (enteroglucagon), ileo-jejunal transposition, 小腸粘膜増殖 (enterotrophin)


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