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日外会誌. 91(2): 272-282, 1990


原著

肺高血圧時におけるECMOの灌流法に関する実験的研究

大阪市立大学 医学部第2外科学教室

森上 和樹 , 山田 忠治 , 塩川 智司 , 大野 耕一 , 前川 保雄 , 木下 博明

(1989年3月27日受付)

I.内容要旨
新生児重症呼吸不全の治療に,Extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)が使用されているが,その呼吸循環動態に及ぼす影響は解明されていない.新生児重症呼吸不全は肺高血圧を伴うことが多いことから,雑種成犬の主肺動脈よりゼラチンスポンジ片を注入し肺高血圧犬を作成後,2種類の灌流法でECMOを施行し,灌流前と灌流後の呼吸循環動態について検討した.
対象を平均肺動脈圧(mPAP)および灌流法によって,次の4群に分類した.
I群(n=7):正常肺動脈圧犬(mPAP<25mmHg),静脈一動脈灌流法(VAB)
II群(n=9):正常肺動脈圧犬(mPAP<25mmHg),静脈一静脈灌流法(VVB)
III群(n=9):肺高血圧犬(mPAP≧25mmHg),VAB
IV群(n=10):肺高血圧犬(mPAP≧25mmHg),VVB
PaO2は,各群とも有意に上昇したが,とくにIII群では45.9±10.3mmHgから125.6±49.4mmHgと著明に上昇した.また,PaCO2は,各群とも有意に低下した.平均動脈圧は各群とも有意差を認めなかったが,平均肺動脈圧は,I群で19.8±5.2mmHgから17.0±2.4mmHg,III群で33.8±3.1mmHgから28.4±6.2mmHg,IV群で33.9±62mmHgから29.1±5.1mmHgといずれも有意に低下した.肺血流量は,III群で1.39±0.21L/minから1.07±0.15L/minと有意に減少し,IV群では有意差を認めなかった.肺血管抵抗は,IV群で1,983.1±656.0dynes・sec・cm-5から1,740.4±635.9dynes・sec・cm-5と有意に減少し,III群では有意差を認めなかった.右室仕事量はI群,III群およびIV群で有意に減少した.以上から,VABでは肺血流量の減少,すなわち前負荷の軽減,VVBでは肺血管抵抗の減少,すなわち後負荷の軽減により,ともに肺高血圧時の右心補助効果を示した.また,VVBでのそれはVABに匹敵し,VVBによるECMOは肺高血圧を呈している重症呼吸不全に対しても応用され得ることが示唆された.

キーワード
ECMO, 灌流法, 新生児呼吸不全, 肺高血圧

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