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日外会誌. 91(1): 114-122, 1990


原著

門脈塞栓術の基礎的検討
―肝組織血流量,エネルギー代謝への影響と抗腫瘍効果について―

東北大学 医学部第1外科学教室(主任:松野正紀教授)

小熊 信

(1989年2月13日受付)

I.内容要旨
ラットを用いて門脈塞栓術(TPE)の肝に与える影響をエネルギー代謝および組織血流量の面から検討した.また腹水肝癌を経門脈性に肝に移植し,移植早期の微小肝癌に対するTPEの効果を検討した.TPE後1,2時間目には塞栓葉のエネルギーチャージは対照群に比べ有意に低下し,この変化は塞栓物質により影響を受けるものの,3時間後には回復した.しかし永久塞栓物質を使用したTPEでは7日後に塞栓葉は40%に萎縮し,total adenine nucleotidesは有意に低下した.TPE 1時間後には肝組織血流量は有意に低下するが,一過性の塞栓物質を使用した場合には1日後に血流量の回復が認められた.一方,永久塞栓物質を用いたTPEでは7日後まで血流低下が持続した.非塞栓葉ではいずれの塞栓物質を用いても血流量の変化は認められなかった.肝動脈塞栓術(TAE)とTPEを併施する場合,同時併施はもちろんのこと,TAE後7日目にTPEを行なっても肝の広範な壊死を招いた.これに対し両者間に14日間の間隔をおくことにより,非癌部の肝組織を温存して異時性に併施することが可能であった.AH-66腹水肝癌細胞を経門脈性に肝に移植し,移植後3日目の微小肝癌に対しTPEを施行した.TPE後各時期のAFP値はコントロール群に比し有意に低下し,生存期間の延長も認められた.以上よりTPEの肝障害は比較的軽度であり,TAEと異時性に組み合わせて治療することが可能であることを実験的に示した.また従来よりTAEでは効果が期待できないような娘結節などの微小病巣に対してTPEの抗腫瘍効果が示唆された.これらのことよりTAEとTPEのそれぞれの特性を生かし,両者を併施することにより今後切除不能肝癌の治療成績の向上が期待できるものと考えられた.

キーワード
門脈塞栓術, エネルギーチャージ, 肝組織血流量, 微小肝癌, AH-66腹水肝癌

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