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日外会誌. 91(1): 101-113, 1990


原著

門脈圧亢進症例の胃粘膜病態よりみた食道静脈瘤外科治療の評価
―胃粘膜微小循環の変化を中心として―

大分医科大学 第1外科

御手洗 義信 , 小林 迪夫

(1989年1月28日受付)

I.内容要旨
門脈圧亢進症(門亢症)における胃粘膜病態を主に胃壁微小循環の面より検討し,さらに,食道静脈瘤外科治療における胃粘膜の変化について検討を加えた.対象症例は門亢症43例,対照12例の計55例で,門亢症43例中,経腹的食道離断術(直達手術)10例(肝硬変症LC:7例,特発性門脈圧亢進症IPH:3例),左胃静脈下大静脈吻合術(シャント手術)10例(LC:7例,IPH:3例)について,術前,術中,術後2週,4週,6ヵ月,1年目の変化を追跡,検討した.測定は,内視鏡下に水素ガスクリアランス法により,胃粘膜,粘膜下血流量を2重針センサーを使用して同時測定し,これに胃粘膜の内視鏡所見および組織所見も併わせ検討した. 
1)門亢症例では,特に胃体部において,粘膜下血流量の増加にもかかわらず,粘膜血流量が低下する特異な微小循環動態が認められた.
2)胃体部における血流は,直達手術群では,術中,粘膜,粘膜下とも30%前後の低下を示したのに対し,シャント手術群では粘膜で6.9%,粘膜下で13.9%の血流低下に止まった.
3)術後長期にわたる検索では,直達手術群では,4週目まで粘膜血流は20%前後,粘膜下血流も20~30%の低下が続き,6ヵ月目以降改善が認められた.シャント手術群では,4週目まで10%近い低下を認めるのみで,6ヵ月目以降は術前値と差は認めなかった.
4)胃内視鏡および組織学的検索においても,血行動態と平行し,シャント手術群では変化は少なかったが,直達手術群では術後早期に胃粘膜病変を認め,特に20%以上胃粘膜血流の低下した症例に顕著であった.6ヵ月目以後においては,両術式間に差は認めなかった.
以上,食道静脈瘤外科治療においては,術後胃粘膜病変の発生,増悪を念頭におき,胃粘膜保護対策を行う必要が示唆された.

キーワード
門脈圧亢進症, 胃粘膜病変, 胃粘膜血流, 選択的シャント手術, 直達手術

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