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日外会誌. 91(1): 77-85, 1990


原著

31P 核磁気共鳴法による急性肝障害における肝内エネルギー代謝動態の解析

*) 旭川医科大学 第2外科学教室
**) 旭川医科大学 医学部附属実験実習機器センター

棟方 隆*) , 田中 邦雄**) , 水戸 廸郎*)

(1989年2月18日受付)

I.内容要旨
非破壊的かつ連続的な代謝産物の測定法である31P-NMRを用い,D-galactosamine(GAL)急性肝障害の進行過程における肝内エネルギー代謝と細胞内pHの変動について検討した.さらに肝内エネルギー代謝を障害させる負荷として灌流停止による温虚血状態を与え,その前後における変動に関しても検討した.
Wistar系雄性ラットを実験動物とし,コントロ一ル群(正常肝)及び1.0g/kgのGAL静注後3,6,12,24時間経過の各群5匹を作製した.摘出灌流肝の31P-NMRスペクトルの測定には,GX-270FT-NMR(日本電子)を用いた.
31P-NMRスぺクトルにおける各ピークはそれぞれの化学シフト量に基づきPME(phosphomonoesters),Pi(無機リン),γ-ATP+β-ADP,α-ATP+α-ADP,NAD/NADH,UDP-sugar,β-ATPの各リン酸化合物に同定された.GAL投与群において,無機リンは3時間経過群でコントロール群に比べて632.1±76.4%と著しい増加を示した.その後は時間経過とともに低下し,24時間経過群では127.5±22.0%まで回復した.ATPは12時間経過群で57.4±12.4%,24時間経過群で65.4±7.7%に低下した.NAD/NADH及びUDP-sugarはGAL投与後の時間経過とともに漸増し,24時間経過群でそれぞれ253.5±33.4%,456.3±60.9%に増加した.なお,GAL投与群では,虚血負荷によるATPの低下は正常肝に比べ急速であった.しかし14分間の虚血後,再灌流によってほぼ前値まで回復した.細胞内pHはコントロール群で7.38±0.065であるのに対し,GAL投与後3時間経過群では7.16±0.032と有意に低下したが,その後24時間までほぼ一定の値を示した.またGAL投与群では,コントロール群に比べ虚血に伴うpHの低下は軽度であった.
以上の結果は,31P-NMRが急性肝不全の進行過程における障害程度の評価に有用であり,肝内エネルギー代謝を指標とした非侵襲的な肝疾患診断法となる可能性を示している.

キーワード
31P 核磁気共鳴法, D-galactosamine 急性肝障害, 虚血, リンエネルギー代謝, 細胞内 pH


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