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日外会誌. 90(12): 2044-2049, 1989


原著

腹部大動脈・腸骨動脈瘤に対する瘤空置人工血管バイパス術の基礎的・臨床的検討

旭川医科大学 第1外科

稲葉 雅史

(1989年1月10日受付)

I.内容要旨
内腸骨動脈瘤を合併した腎動脈下腹部大動脈・腸骨動脈瘤に対し,手術手技の簡略化,侵襲軽減を目的として瘤中枢側を離断・縫合閉鎖し解剖学的バイパスを併施する瘤空置人工血管バイパス術(以下瘤空置術)を基礎的・臨床的に検討した.雑犬を用いたモデル実験では,空置大動脈内圧対体血圧比(E.P.I.)は,0.62±0.03(n=7,平均値±SD)でありInflow完全遮断の指標はE.P.I.<0.7と考えられた.空置大動脈(e・A0)の血栓閉塞時期は術後2週前後と推察されたが,3ヵ月を経過した3頭中1頭に腰動脈(LA)一下腸間膜動脈(IMA)間のe・A0開存例が認められた.またLA開放時のe・A0内圧はIMA解放圧より常に高値であることから本法は術後下部腸管血流維持に有利となる可能性が示唆された.臨床では,1977年6月以降に教室で施行した腹部大動脈・腸骨動脈瘤手術91例中40例(43.8%)に瘤空置術を施行した.内訳は待期例35例,破裂5例であり男性33例,女性7例,年齢は48~83歳,平均年齢69.9歳であった.内腸骨動脈瘤合併は49%に認められ,併存する閉塞性動脈疾患に対する同時手術を45%に施行している.空置瘤はCTによる観察では術後1ヵ月以内に血栓閉塞し空置瘤破裂やDICなどは1例も認めなかった.空置瘤は術後長期には多少の縮小が観察された.術後合併症発生率には瘤切除群との間に差は認めないが,術後性機能温存の面から瘤空置術の有利なことが示唆された.瘤空置術群には早期死亡はなく,最長観察8.5年で遠隔死亡は11例であった.術後累積生存率は,1年94.7%,5年55.6%,9年55.6%であり,瘤切除群と遜色ない良好な結果が得られている.本法は安全性が高く手術手技が極めて簡略化されることから,内腸骨動脈瘤を合併した広範囲動脈瘤,高齢者high risk症例に限定することなく,本法の利点をふまえて広く適応し得る術式と考える.

キーワード
腹部大動脈瘤, 内腸骨動脈瘤, 瘤空置人工血管バイパス術, 瘤切除人工血管置換術, 術後性機能障害

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