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日外会誌. 90(12): 2037-2043, 1989


原著

冠動脈疾患・悪性腫瘍合併症例に対する外科治療
ー二期的手術及び同時手術の検討ー

大阪大学 医学部1外科
1) 岐阜大学 医学部第1外科

高橋 俊樹 , 中楚 粛 , 松田 暉 , 松村 龍一 , 桜井 温 , 広瀬 一1) , 川島 康生

(1989年1月23日受付)

I.内容要旨
冠動脈疾患・悪性腫瘍合併症例に対する外科治療においては,悪性腫瘍手術の根治性に加え,冠血行再建術による心筋梗塞発生予防・血行動態改善の成否がその予後に重大な影響を及ぼす.今回,教室で経験したかかる症例14例について外科治療上の問題点と対策について検討したので報告する.対象は,年齢47~77歳(平均65±8歳),悪性腫瘍臓器は胃8例,乳腺2例,肺2例,直腸1例,食道1例であった.冠動脈病変枝数は1枝一2例,2枝一4例,3枝一8例であり,左室瘤・心房中隔欠損・左室冠動脈痩の合併を各1例に認めた.初期の8例ではA-Cバイパス術後平均6.2週後に,1例ではPTCA後2週後に二期的に悪性腫瘍手術を行った.最近の5例では A-Cバイパス術(左室瘤切除術,ASD閉鎖術合併各1例)と同時に悪性腫瘍手術を施行した.二期的手術症例では悪性腫瘍手術の合併症により1例を失ったが,全例安定した血行動態下に悪性腫瘍手術を施行できた.しかし,二期的手術を第一選択とした初期の6例中3例ではA-Cバイパス術後の全身状態の改善にとまどり,その内進行胃癌の1例では根治手術待機中に腫瘤が急速に増大した.そこで,根治手術可能な進行癌症例においては同時手術を第一選択とし,最近の5例に施行した.同時手術症例では,肺癌の1例で横隔膜神経麻痺により一時呼吸管理に難渋したが,術中梗塞・後出血・感染等の合併症は生じず全例で良好な結果を得た.
したがって,冠動脈疾患・悪性腫瘍合併症例では,悪性腫瘍の根治性が充分に期待できる場合,冠血行再建術を先行し,循環動態を安定させた上で徹底した悪性腫瘍の手術を目指すべきであると考える.さらに可能な症例では積極的に同時手術を行い,悪性腫瘍の根治性向上を図るべきであろう.

キーワード
虚血性心疾患, 冠血行再建術, 悪性腫瘍, 同時手術

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