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日外会誌. 90(12): 2000-2007, 1989


原著

ラット甲状腺腫瘍発生における脾内甲状腺自家移植の修飾効果

自治医科大学 消化器・一般外科
*) 自治医科大学 消化器病理

山田 茂樹 , 広田 紀男*) , 金沢 曉太郎

(1989年1月12日受付)

I.内容要旨
甲状腺腫瘍発生における高TSH刺激の役割を明らかにするため,ヨード制限や抗甲状腺剤を用いないTSH分泌亢進状態を甲状腺全摘後に片葉を脾内自家移植する実験モデルによって作成し,甲状腺発癌剤少量投与に対する修飾効果を検討した.Wistar雄性ラットにdiisopropanolnitrosamine(DIPN)2.4g/kg体重を皮下注し2週後に甲状腺全摘・自家移植を行い,経時的なホルモン動態の測定と術後26週での甲状腺組織の変化・腫瘍発生・γ-glutamyl transpeptidase(GGT)染色像を発癌剤単独投与群・移植単独群との間で比較した.
移植群では血中TSHは術後9週をピークに18週まで高値を示し21週で正常域に戻ったが,DIPN単独ではTSHの変動は認められなかった.出現した濾胞上皮性病変を3型に分類しその発生頻度を比較すると,濾胞状過形成はDIPN+移植群で60%,DIPN単独群で36%と,両群とも移植単独群(0%)に対し有意に増加し発癌剤投与との相関を示したが,高TSH分泌刺激による影響は明らかでない.腫瘍性結節はDIPN+移植群にのみ出現し,8/15例(53%),高TSH分泌刺激による明瞭なプロモーション効果が認められた.8例中2例は顕性癌と判定しうる病変で,内1例は電顕所見にてヒト甲状腺乳頭癌に似た像を呈した.GGT陽性異型濾胞は移植単独群(0%)・DIPN単独群(6%)に対しDIPN+移植群で36%と明らかな増加を示し,腫瘍性結節と似た発生状況から両者の関連性が示唆された.
以上の結果から本実験の高TSH刺激はイニシエーターとしての作用は示さずプロモーターとしてのみ作用し,正常の3倍程度の比較的低いTSH上昇によって短期間で顕性癌に至るプロモーション効果を発揮したと考えられる.GGT染色は腫瘍性結節で陽性,濾胞状過形成で陰性と,腫瘍マーカーとして病変の組織学的異型度をよく反映した.

キーワード
ラット甲状腺腫瘍, 脾内甲状腺自家移植, Diisopropanolnitrosamine, γ-Glutamyl transpeptidase 染色

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