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日外会誌. 90(12): 1989-1999, 1989


原著

各種腹膜炎及び腹圧上昇のエンドトキシン吸収に及ぼす影響に関する実験的検討

広島大学 医学部外科学第1教室(主任:松浦雄一郎教授)
(指導:広島大学医学部附属病院総合診療部 横山隆教授) 

藤本 三喜夫

(1989年1月20日受付)

I.内容要旨
腹腔内にエンドトキシン(Et)を投与した場合にEtはリンパ行性に吸収される.しかし,実際の消化管穿孔性腹膜炎では,胃液・胆汁・糞便等が腹腔内に流出して惹起される腹腔内の化学的および細菌性の炎症が存在したり,炎症による腸管の麻痺及びそれにもとづき腹腔内圧が上昇したりするために単純にEtを腹腔内に投与した場合の吸収と異なることが予想される.しかし,このような合併する病態がEt吸収へどのような影響をあたえるのかについての研究はいまだなされていない.そこで,Et腹腔内単独投与(Et単独群),胆汁・糞便・酸を腹腔内投与30分後Et同量腹腔内投与(腹膜炎群),腹圧上昇時Et同量腹腔内投与(腹圧群)の各モデルを作成し,Et吸収にいかなる影響を及ぼすかについて検討した.
血中Et値は,Et単独群と比較すると,腹膜炎群では有意(p<0.01)に低値を,腹圧群では有意(p<0.01)の高値を示した.平均動脈圧は,Et単独群に比し,腹膜炎群では有意(p<0.01)に保たれ,腹圧群では180分後に有意(p<0.05)に低下した.心拍出量・肝組織血流量は,腹膜炎群ではEt単独群に比し低下が少なく,腹圧群では他群に比し30分後より有意(p<0.01)に低下した.また,腹膜炎群ではEt単独群に比し,白血球数・血小板数および血清LDH・β-glucronidase値の変動も少ない傾向にあった.
以上,胆汁・糞便・酸により炎症を惹起後腹腔内にEtを投与した場合,Et単独投与の場合に比し,Etの吸収は抑制され,生体の反応も比較的軽微であったことから,腹膜炎それ自体がEtの吸収に関しては生体にとって防御的に作用しているとの結論を得た.しかし,これに麻痺性イレウスによる腹圧上昇が加わると,Et単独投与の場合に比し,Etの吸収は有意に増加し,さらに血圧およびこれに先行する肝組織血流量・心拍出量の低下など循環系の悪化をきたし予後不良となり得る事が示唆された.

キーワード
エンドトキシン吸収, 胆汁性腹膜炎, 糞便性腹膜炎, 胃穿孔性腹膜炎, 腹腔内圧上昇


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