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日外会誌. 90(11): 1922-1931, 1989


原著

癌性胸膜炎に対する IL-2の胸腔内投与に関する臨床的研究

秋田大学 医学部外科学第2講座(主任:阿保七三郎教授)

鈴木 裕之

(1988年12月21日受付)

I.内容要旨
Interleukin-2 (IL-2) は最近のBiotechnologyの進歩により臨床応用への道が大きく拓かれたが,その単独療法は効果に乏しいとされ報告も少なく,より効果的なプロトコールが切望されている.著者はIL-2により誘溝されるLAK細胞(Lymphokine-Activated Killer Cell)の抗腫瘍効果を解析し,癌性胸膜炎を対象にIL-2の胸腔内投与を行いIL-2の単独療法の効果を検討した.
基礎的実験の結果,進行食道癌患者におけるLAK活性は他疾患患者および健常人と比較して有意差を認めなかった.また, LAK細胞の表面抗原は末梢血リンパ球と比しOKIal, Leu7, OKT8腸性細胞の比率が上昇していた.さらにマウスを用いた癌性腹膜炎の治療モデルによる実験では対照群が全例死亡したのに対し, IL-2の腹腔内単独投与群では高率で癌性腹膜炎が治癒した.
臨床的には癌性胸膜炎10症例の12胸腔を対象とし,独自に作成したプロトコールに則りIL-2の単独胸腔内投与を行った.その結果全例の胸水細胞診を陰性化せしめ,著効3例,有効7例を得,有効率は100%であった. 10例中7例が退院可能となり,治療開始からの平均生存期間は9.0カ月で現在まで胸水の再貯留を認めた症例は1例もなかった.臨床例の解析からこの効果発現のメカニズムは胸水中では IL-2濃度を高く維持でき,胸腔内の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: Tumor Infiltrating Lymphocyte)から誘導されたLAK細胞が殺細胞効果の十分得られる環境で多量に増殖したためと考えられた.
このIL-2の胸腔内投与は従来からのIL-2単独療法に比べ遥かに優れた効果を期待でき,単に治療成績からだけでなく,その方法の簡便さ,副作用の程度からしても癌性胸膜炎に対する治療法の第ー選択となり得ると確信した.

キーワード
Interleukin 2 (IL-2), 癌性胸膜炎, Lymphokine-Activated Killer (LAK) 活性, Tumor Infiltrating, Lymphocyte (TIL)


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