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日外会誌. 90(11): 1866-1872, 1989


原著

食道癌術後気道粘膜の変化
ーとくに頚部上縦隔郭清の影響を中心にー

鹿児島大学 医学部第1外科(主任:島津久明教授)

草野 力 , 馬場 政道 , 田辺 元 , 吉中 平次 , 福元 俊孝 , 愛甲 孝 , 島津 久明

(1988年12月7日受付)

I.内容要旨
切除食道癌27例を対象とし,頚部・上縦隔リンパ節郭清に伴う気道粘膜の経時的変化を気管支鏡下に観察した.気道粘膜の変化を肉眼的に4段階に分類し(GI: 無変化~軽度発赤にとどまるもの,GII: 強度発赤~びらん形成を認めるもの; GIII: 潰瘍形成を認めるもの;GIV: 粘膜壊死所見を認めるもの),郭清範囲,咳嗽反射出現日,呼吸指数,肺浸潤影出現率などとの関連を検討した.気管支鏡観察は術後第1 • 4 • 7 • 14病日に行った.Grade分類の判定は所見が最も顕著に現れた第4病日に行い,その結果,GI: 7例,GII: 7例,GIII: 11例,GIV: 2例であった.GIIIの潰瘍の搬痕・治癒化には約2週間を要した.また1病日にGIIを呈した気道粘膜について第1• 第7病日に気管分岐部粘膜の生検を行った結果,第7病日の13例中9例に扁平上皮化生を認めた.リンパ節郭清範囲の拡大に伴いGIII・IVの変化が増加したが,両側頚部とNo.106左右を含む広範の郭清を行った18例中6例(33%)はGII以下であり,気道粘膜と郭清範囲とは相関傾向を示すものの必ずしも一致せず,郭清範囲のみで侵襲の程度を評価するのは妥当でないと思われた.GI群の咳嗽反射出現日は平均2.3日であったのに対し,GII~IV群では平均6.1日となり,出現日の有意の遅延を認めた.GI• II群の呼吸指数は上昇して第2病日にビークに達し,以後は改善傾向を示したがGIII・IV群では上昇の程度が大きく,改善の遅延もみられた.肺浸濶影の出現率でもGI・II群の21%に対して,GIII・IV群では62%で,両者の間に有意差を認めた.
気道粘膜の変化は気管・気管支の血流障害のみならず肺実質を含めた呼吸器系全体に対する頚部・上縦隔郭清の影響を反映していた.気管支鏡下の気道粘膜のGrade分類は食道癌手術によって個々の症例がうける侵襲を判定するうえに重要な指標になるものと考えられた.

キーワード
胸部食道癌, 頚部上縦隔リソパ節郭清, 術後の気管支鏡検査, 気道粘膜の変化, 呼吸器系の侵襲程度


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