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書誌情報]
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日外会誌. 90(10): 1780-1785, 1989
原著
甲状腺腫瘍患者における腫瘍側・健常側上甲状腺動脈血流測定とその臨床的意義
I.内容要旨我々は,超音波パルスドプラ法を用いた非侵襲的,定量的上甲状腺動脈血流測定法を確立し,各種甲状腺疾患において測定を行ってきたが,今回孤立性甲状腺腫瘍を対象に血行動態の解析を行い,組織特性判定因子としての血流所見に対して検討を加えた.
甲状腺良性腫瘍75例(沪胞腺腫72例,乳頭腺腫3例)及び甲状腺悪性腫瘍30例(乳頭癌22例,沪胞癌4例,髄様癌1例,悪性リンパ腫1例)の計105例を対象とし,高周波数パルスドプラ装置を用い,両側の総頚動脈,上甲状腺動脈の測定を行った.総頚動脈血流では,腫瘍の存在による変動は全く見られなかったが,腫瘍側上甲状腺動脈血流量は,健常対照群で2.12±1.92ml/minであったのに対して,良性群では20.31±20.64ml/min,悪性群で22.71±22.80ml/minと共に有意な増加が見られた.また,腫瘍の大きさと血流量の間には,正の相関関係が見られ,腫瘍の存在部位別の検討では,上極寄りに存在する腫瘍例では,下極寄りのものに比べ有意な増加が認められた.しかし,腫瘍の大きさや存在部位による因子を加味しても,良性群と悪性群の腫瘍側上甲状腺動脈血流に差は認められなかった.一方,健常側上甲状腺動脈血流においては,悪性群;10.93±10.02ml/min,良性群6.22±6.94ml/minと悪性群において有意な増加が見られた.甲状腺悪性腫瘍においては,腫瘍側の上甲状腺動脈より栄養されるのみならず,対側への癌の浸潤が見られないにもかかわらず.健常側上甲状腺動脈血流は増加することが明かとなった.そこで,患側血流との比より良・悪性の判断を行ったところ,正診率79.8%という高い診断率が得られ,組織特性判定に血行動態から見た定量性という新しい分野の因子が加わったものと考えられた.本測定法は,臨床鑑別診断において,非侵襲的かつ定量的であり,非常に有用なものと考えられた.
キーワード
甲状腺腫瘍, 超音波パルスドプラ法, 上甲状腺動脈血流, 腫瘍良性・悪性の鑑別, 腫瘍血管
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