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日外会誌. 90(8): 1251-1257, 1989


原著

人工血管の感染予防に関する研究

横浜市立大学 医学部外科学第1講座(主任:松本昭彦教授)

蔵田 英志

(1988年8月22日受付)

I.内容要旨
移植された人工血管に感染が起こると治療は極めて困難であり,感染を是非とも予防することが重要である.
動脈瘤の手術時,無菌的に切除された瘤壁の一部を培養して術野の汚染の程度を調べた.その結果58例中21例,36%に細菌が検出された.そこで,人工血管の感染を予防するためにexpanded polytetrafluoroethylene(E-PTFE)人工血管にtobramycin(TOB)を含浸する方法を考案した.まずE-PTFE人工血管にTOBの含浸による人工血管の抗血栓性の維持および開存性に対する影響,さらに感染に対する効果を検討した.TOBの血液に対する凝固能の検討では抗凝固的に作用した.TOBを含浸したE-PTFE人工血管の開存性につき生食含浸したE-PTFE人工血管と比較したが,1ヵ月後TOB含浸7本中6本開存,生食含浸7本中6本開存と全く差がなかった.また,TOBを含浸したE-PTFE人工血管のin vivoにおけるTOBの人工血管内残留濃度を測定し,6時間後で100μg/g以上,24時間後でもMICを越える量が残留していた.そこで雑種成犬の両側頸動脈を用い,一方にTOB含浸E-PTFE人工血管を,他方に生食含浸E-PTFE人工血管を移植し,細菌を散布してその効果を調べた.Staphylococcus aureusを散布した8例のうち2例において,生食含浸側の人工血管内面性状が不良であり,Staphylococcus epidermidisを散布した10例のうち4例において生食含浸側の人工血管内面性状が不良であった.合計18例中6例において生食含浸側が不良であったが,TOB含浸側で生食含浸側より人工血管内面性状が不良であった例はなく,有意の差を認めた(p<0.05).以上のことよりE-PTFE人工血管にTOBを含浸する方法は,人工血管の感染予防に有用であると考えられた.

キーワード
人工血管感染, E-PTFE 人工血管, 含浸処置, tobramycin


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