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日外会誌. 90(8): 1238-1244, 1989


原著

急性門脈遮断時および解除後の小腸組織障害に関する実験的研究
第1編:循環動態と脂質過酸化反応

愛媛大学 医学部第2外科学教室(主任:木村 茂教授)

上田 重春

(1988年10月26日受付)

I.内容要旨
肝移植術および門脈再建を必要とする膵癌や胆道癌手術では門脈遮断を余儀なくされる.門脈遮断により腸管はうっ血し,漿膜下および腸管腔内に出血が起こり,門脈循環停止のため早期にショック状態に陥る.急性門脈遮断時および解除後の小腸組織障害を解明するため,ラットを用い,循環動態,小腸組織形態,TBA(thiobarbituric acid)reactants(過酸化脂質)変動,腸管腔内および組織中出血量を調べ,小腸うっ血障害における脂質過酸化反応の関与とO-2産生阻害剤であるallopurinolの効果,および小腸うっ血を軽減させる処置(上腸問膜動脈同時遮断,門脈一静脈系シャント設置)について検討した.
1)肝門部門脈遮断により門脈圧は約5分で8倍に上昇し,小腸はうっ血し粘膜絨毛上皮の破壊,腸管腔内出血が起こり,遮断解除後も腸管腔内への出血性障害は進行した.
2)門脈遮断解除後の小腸出血性障害はallopurinol投与により軽減した.
3)血漿中TBA reactantsは門脈遮断で増加し,遮断解除後も高値を示した.組織中でも遮断により増加した.
4)門脈遮断時の小腸障害を軽減する処置としては,門脈一静脈系シャント設置が最も有効であり,上腸間膜動脈同時遮断も有効であった.
以上より,急性門脈遮断時および解除後の小腸障害は,遮断中は門脈圧の急激かつ著明な上昇による物理的障害が主因であり,遮断解除後は小腸組織のxanthine oxidase系で産生されるO-2によるreperfusion injuryが発生し小腸障害を助長すると考えられた.また,門脈遮断中にも門脈床においてTBA reactantsが増加したことより,遮断中も脂質過酸化反応が起こっていると考えられた.

キーワード
急性門脈遮断, 循環動態, 小腸組織障害, 脂質過酸化反応, allopurinol

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