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日外会誌. 90(8): 1230-1237, 1989


原著

イヌを用いた肝温阻血における血中胆汁酸動態に関する研究

1) 岩手医科大学 第1外科学教室(主任:斉藤和好教授)
2) 岩手医科大学 生化学教室(主任:小野 繁教授)

玉沢 佳之1)2) , 菅野 千治1) , 堀内 三郎2)

(1988年9月30日受付)

I.内容要旨
近年,門脈一上大静脈,下大静脈一上大静脈系の体外バイパスを併用することにより許容肝血流遮断時間は延長し,肝胆道膵領域疾患に対する外科手術は拡大する傾向にある.しかし肝は阻血に対し非常に敏感な臓器とみなされており,血流遮断時間が長くなるにつれ肝の障害も進行するものと考えられる.本実験では,対象として犬を用い,体外バイパス下に肝を30分,60分,90分間温阻血状態にし,門脈血,末梢静脈血中の胆汁酸を経時的に測定し,同時に門脈血流量も測定し以下の結果を得た.
1.阻血中,体外バイパスの併用により胆汁酸腸肝循環が破綻し,静脈血中において総胆汁酸は著明に増加し,特に二次胆汁酸あるいは遊離型胆汁酸の割合が増加していた.
2.門脈血流量は,各阻血群とも血流再開後漸減し,さらに阻血時間が長くなるほど血流量の減少が増強した.
3.血流再開後胆汁酸は肝細胞に摂取され静脈血中で減少したが,90分群では,肝細胞の摂取量が減少しておりこのことは門脈血流量の減少によるものと考えられた.
4.さらに90分群では阻血中の分画の変化が改善せず,二次胆汁酸と遊離型胆汁酸で摂取率が低下し,肝細胞での胆汁酸摂取能の低下が示唆された.
以上より,体外バイパスを併用した肝温阻血後における血中胆汁酸の測定は,門脈血流量と肝細胞の胆汁酸摂取能を含めた肝のviabilityの指標の一つとして有用と考えられた.

キーワード
肝阻血, 胆汁酸分画, 門脈血流量, 胆汁酸摂取能

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