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日外会誌. 90(7): 1096-1109, 1989


原著

自家静脈グラフトによる下肢動脈血行再建成績と遠隔期グラフト閉塞原因に関する臨床的及び病理学的研究

東京大学 医学部第2外科

宮田 哲郎

(1988年9月5日受付)

I.内容要旨
自家静脈グラフトの遠隔閉塞原因を検討する為,自家静脈グラフトにより下肢動脈血行再建を施行した62例79肢の成績を分析し,術後早期(1ヵ月以内)と遠隔期(6ヵ月以上)に繰り返し血管撮影を行った24例33肢及び回収グラフト11標本の所見より下肢動脈の遠隔期形態変化を調べた.観察期間中のグラフト閉塞は30肢であり,早期閉塞7肢,遠隔期閉塞23肢(狭窄8肢を含む)で,遠隔期閉塞中19肢は2年以内に閉塞した.5年累積開存率は58.6%であった.グラフト血流波形及び血流速度は閉塞群と開存群とで差はなかった.遠隔期形態変化は,流入動脈ではグラフト直上の浅大腿動脈の閉塞1肢のみだったが,移植グラフトには8ヵ所の狭窄が確認され,内訳は吻合部内膜肥厚5,硬化性変化2,腱による圧迫1であった.また,グラフトの瘤様拡張が3吻合部にみられた.流出動脈では硬化性変化の進展が5肢にみられたが,10肢ではバイパスされた血管が太くなり血流改善がなされていた.遠隔期吻合部狭窄5吻合部中4吻合部では早期より軽微な吻合部形態変化(以下くびれ)が認められ,逆に早期にくびれがみられた10吻合部中,6吻合部で遠隔期に狭窄性変化が増悪していた.充分な標本の検討が出来た4狭窄吻合部では全例で吻合部周囲の疲痕変化が高度であり,ASO例の3吻合部では宿主動脈に硬化病変の残存がみられ,その部位で狭窄が最も高度であった.以上より,遠隔期グラフト閉塞の原因として内膜肥厚による吻合部狭窄が最も問題であり,その発生には,吻合終了時の吻合部のくびれ,動脈剥離に伴うと思われる吻合部周囲の疲痕,吻合部位として病変のある宿主動脈を選択したといった,主に手術手技で影響される局所因子の関与が大きい事が証明できた.

キーワード
下肢動脈血行再建, 自家静脈グラフト吻合部内膜肥厚, 遠隔期グラフト閉塞

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