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日外会誌. 90(7): 1081-1086, 1989


原著

DeBakey IIIb 型解離性大動脈瘤術後の偽腔の変化と entry 閉鎖術の妥当性の検討

国立循環器病センター 心臓血管外科
*) 現名古屋大学 医学部胸部外科

玉木 修治*) , 中島 伸之 , 安藤 太三 , 上村 重明 , 安達 盛次 , 藤田 毅

(1988年7月4日受付)

I.内容要旨
解離性大動脈瘤(DAA)IIIb型18例を対象に術後の偽腔の変化を検討することにより術式の妥当性について検討を加えた.腹部重要分枝が全て真腔より起始していた7例をI群,腎動脈が偽腔より起始していた11例をII群とした.
I群:術前にre-entryが確認された4例では術前CTで偽腔に血栓は認めなかった.術後大動脈造影で吻合部にleakageを見た症例はなく,術後早期(25~55日)のCTで下行大動脈の偽腔は全例血栓閉塞され,上腹部大動脈の偽腔でも3例のみに僅かな血流を認めた.
遠隔期(9ヵ月~35ヵ月)のCTで3例において全偽腔が完全に消失し形態的には正常となり,他の3例においても血栓閉塞した偽腔は残存するが大動脈径が明らかに縮小していた.
II群:術前全例にre-entryを認め,偽腔より起始する腎動脈の血流は保たれていた.entry patchclosureを施行した2例はいずれもleakageを残し,術後20ヵ月,36ヵ月のCTでもなお偽腔は血流を有していた.他の9例にleakageは認めず,術後21日から27ヵ月のCTで下行大動脈の偽腔は血栓閉塞されていた.しかし上腹部大動脈の偽腔は閉塞されておらず,偽腔より起始する腎動脈の血流も保たれ,機能障害も起こらず,上腹部大動脈の偽腔は全例血流を有していた.
これらのことより以下の結論をえた.術後偽腔へのleakageの無い症例で重要分枝への血流に関与していない偽腔は,血栓形成,血栓吸収,偽腔消失という治癒過程をたどる.この治癒過程にはentryの確実な閉鎖が重要でentryを確実に処理しうることと同時に再開した血流を確実に真腔のみに流す術式を選択すべきで,人工血管置換術が推奨される.又術前から偽腔が腎動脈への血流に関与している場合にも偽腔の一部は術後も血流が保たれ腎機能障害の発生を見た症例も無いことから,この術式は推奨されるが未だ不明な点も多く長期にわたる経過観察が必要である.

キーワード
解離性大動脈瘤 (IIIb), 術後偽腔の変化, 偽腔血栓形成, 偽腔消失による治癒


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