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日外会誌. 90(7): 1072-1080, 1989


原著

気管軟化症に対する外科的療法に関する実験的研究
ー気管軟化症のモデル作製法と新しい手術術式の開発ー

京都桂病院 呼吸器センタ―

塙 健 , 池田 貞雄 , 船津 武志 , 松原 義人 , 畠中 陸郎 , 小鯖 覚 , 塩田 哲広

(1988年9月27日受付)

I.内容要旨
気管気管支軟化症に対する新しい手術術式の開発のため,①雑種成犬を用いて気管軟化症のモデルを作製し,ついで,②作製したモデルに対してMarlex meshおよび各種の接着剤を用いて気管外固定術を行い本症に対する新しい手術術式を考案したので報告する.①気管軟化症のモデル作製法としては31頭の雑種成犬の胸腔内下部気管の軟骨を骨折または切除する方法を試みた.モデル作製後に気管支鏡検査にて気管の咳蹴時の虚脱度を確認したのち,気管の圧縮強度を測定した.圧縮強度はモデル作製前の平均820g/cm2からモデル作製直後は平均125g/cm2へと低下した.このことより本法により気管軟化症のモデルが作製されることが判明した.②本症に対する手術術式として気管外固定法を種々検討した.気管外固定は28頭に行い,3頭を対照群とした.先ず11頭には,Silastic sheet(1頭ではLyodura)を外面に接着したMarlex meshを気管外面に縫合固定した.その結果,外固定2カ月後平均458g/cm2,6ヵ月後平均2,100g/cm2と経時的な圧縮強度の上昇を認め,支持力は得られることが判明した.Marlex mesh内外には結合組織の増生がみられた.しかし4例に,縫合糸が原因と考えられる粘膜欠損がみられた.そこで17頭の犬に縫合糸のかわりに接着剤を用いた気管外固定法を試みた.用いた接着剤は,PUP(polyurethaneprepolymer),cyanoacrylate,fibrin glueの3種類である.気管とMarlex meshの接着にPUPを用いた2例では有効な気管の支持力は得られなかった.cyanoacrylateで気管とMarlex meshの接着を行ったのは5例で,そのうち,3~4ヵ月後の3例では,平均1,630g/cm2,7~8ヵ月後の2例は平均3,750g/cm2と著しい圧縮強度の上昇を認めた.fibringlueで気管とMarlex meshの接着を行ったのは8例で,そのうち,2ヵ月後2例の平均450g/cm2,3~8ヵ月後の6例はいずれも650g/cm2~850g/cm2の圧縮強度であった.以上のように,Marlexmeshをcyanoacrylateあるいはfibrin glueなどの接着剤で固定する外固定法では,術後に気管の支持力は充分に得られ,しかも縫合糸を用いたときに惹起されたような粘膜欠損は1例も認めず,気管軟化症の手術術式として満足のいく結果が得られた.とくにfibrin glueを用いた外固定術では健常気管に近い圧縮強度が得られ安全性も高いと考えられ,本症に対する外科的治療法の新しい術式になりうると考える.尚,念のため,Marlex meshを用いず気管の周囲にcyanoacrylateのみを塗布して気管の硬化を2例に試みたが,有効な支持力は全く認められず,Marlex meshの有用性が証明された.

キーワード
気管軟化症, 気管外固定術, 接着剤, Marlex mesh, fibrin glue

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