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日外会誌. 90(7): 1049-1056, 1989


原著

甲状腺腫瘍における組織内ポリアミン値およびオルニチン脱炭酸酵素活性の検討

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

山本 修美

(1988年8月30日受付)

I.内容要旨
オルニチンはナルニチン脱炭酸酵素(ODC)を介してputrescine(PUT),spermidine(SPD),spermine(SPM)のポリアミンへと代謝合成され,細胞増殖と密接に関連している.手術時に得た甲状腺組織186例を対象として組織内ODC活性とポリアミン値を測定し,病理組織所見,臨床像と対比し,これらが甲状腺腫瘍の生物学的悪性度の指標になるか否か検討した.組織内ODC活性とPUT・SPD・SPM値は未分化癌,乳頭癌,濾胞腺腫,腺腫様甲状腺腫の順に高値を示し,両癌とも濾胞腺腫および腺腫様甲状腺腫より有意(それぞれp<0.001 0.001,0.001,0.01)に高値を示した.とくにPUT値は未分化癌2.28nmol/mg protein(以下略),乳頭癌0.68で,良性結節病変である濾胞腺腫0.11,腺腫様甲状腺腫0.06や正常組織0.04に比べて高かった.また各症例のポリアミン分画の変動をみると腺腫様甲状腺腫と濾胞腺腫はバラツキが少ないのに対し,乳頭癌ではPUTの上昇例が多く,未分化癌ではさらにその傾向が強かった.PUT/SPD比,SPD/SPM比も未分化癌,乳頭癌,濾胞腺腫,腺腫様甲状腺腫の順に高値を示した.良性結節病変のMean±2SDをcut off値とした時のODCとPUTの陽性率はそれぞれ0.83,0.76であった.乳頭癌を高分化癌と低分化癌に分けるとODC活性とポリアミン値は低分化癌の方が高く,とくにPUTとPUT/SPD比では有意(それぞれp<0.05)に高値を示した.年齢,性別および腫瘍体積,リンパ節転移度とポリアミン値の間には相関関係は認められなかった. 
以上よりODCとポリアミンは甲状腺腫瘍の生物学的悪性度を表現する指標の一つとなりうると考えられた.

キーワード
オルニチン脱炭酸酵素, ポリアミン, 甲状腺癌, 生物学的悪性度


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