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日外会誌. 90(7): 1032-1042, 1989


原著

膵癌切除症例の検討
ー特に大血管浸潤膵癌について

島根医科大学 第1外科

田村 勝洋 , 金 聲根 , 小野 恵司 , 長見 晴彦 , 寺本 睦 , 樽見 隆雄 , 中瀬 明

(1988年8月27日受付)

I.内容要旨
門脈,腹腔動脈,総肝動脈,上腸間膜動脈を膵癌手術上の大血管と規定し,膵管癌の手術症例25例を対象に,大血管非浸潤癌,同浸潤癌に大別して,切除率,手術侵襲,遠隔成績,術後のquality of lifeの検討を行った.肝や腹膜転移,その他の遠隔転移のため,非切除となった8例を除くと,大血管非浸潤癌は6例,同浸潤癌は11例であった.前者はすべて膵切除を施行したが,治癒切除は膵頭十二指腸切除による5例であった.後者のうち,7例に膵切除を施行したが,6例は治癒切除ですべて血管合併切除を伴う拡大手術(5例は膵全摘,1例は尾側膵亜全摘)であった.残る4例は大血管への癌浸潤のため,切除を断念した.従って,手術切除率は52%,治癒切除率は44%であった.大血管浸潤癌に対する血管合併切除を伴う拡大手術は切除率の向上には寄与したが,それによる上部消化管大量合併切除など,手術侵襲はきわめて大きかった.治癒切除症例のうち,大血管非浸潤癌の5年生存率は67%,同浸潤癌の1年生存率は42%(1年以上生存2例,死亡例平均生存期間6.8±3.1ヵ月)であり,後者は前者より明らかに悪かった.一方,大血管浸潤のために切除を断念した症例は全例,6カ月以内に癌死した.治癒切除症例における術後のquality of lifeは大血管非浸潤癌では良好であったが,同浸潤癌の膵全摘症例ではきわめて悪かった.しかし,膵全摘後に尾側膵自家移植を施行した2症例ぽ現在,生存中で移植膵は生着,機能しており,インシュリン注射は必要とせず,きわめて良好なquality of lifeを得て社会復帰している.膵癌における膵全摘後の尾側膵自家移植の適応は限られているが,膵全摘術後のquality of lifeの改善にとって有力な手段であると思われた.

キーワード
大血管浸潤膵癌, 血管合併切除, 拡大膵全摘, 膵癌切除症例の quality of life, 尾側膵自家移植

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