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日外会誌. 90(7): 999-1008, 1989


原著

消化器外科手術症例における尿細管障害

福島県立医科大学 第1外科学教室(指導:元木良一教授)

寺島 信也

(1988年7月21日受付)

I.内容要旨
外科手術を施行した48症例につき,腎尿細管上皮の障害を鋭敏に反映して上昇する尿中β2-microglobulin(以下BMG)値および尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase(以下NAG)活性値を測定し外科手術前後の尿細管障害を検討した.
1)術前値は,尿中BMG値,尿中NAG活性値ともに緊急群で待期群に比して有意の高値を示した.
2)48例中3例の急性腎不全症例を除く45例は経過中一般腎機能はほとんどが正常域で経過したが,尿中BMG値および尿中NAG活性値では異常高値が高率に認められ,腎尿細管上皮に対する障害が示唆された.
3)術後値は合併症なく良好な経過をとった症例でも,尿中BMG値,尿中NAG活性値ともに上昇する傾向が認められ,高度侵襲群は軽度侵襲群に比してより高値を示した.
4)合併症を併発した症例では,尿中BMG値,尿中NAG活性値ともに著明に上昇し,より高度の腎尿細管障害が示唆された.循環障害を伴う症例は,循環障害を伴わない症例より上昇程度も著しく,期間も長期化した.
5)術前よりショックに陥っていた10例は尿中BMG値,尿中NAG活性値ともに術前より著しく高値であり,術後も高値が持続した.うち3例が急性腎不全となったが,これら3例ではいずれも著明に高値を示したものの,急性腎不全に至らなかった7症例との間に明らかな差は認められなかった.
6)術後アミノグリコシド系抗生物質使用例では尿中NAG活性値は上昇を認めた.ウリナスタチンは尿中NAG活性値を低下させる傾向が認められた.一方,尿中BMG値はアミノグリコシド系抗生物質およびウリナスタチン使用によっても一定の傾向を示さなかった.

キーワード
術後尿細管障害, β2-microglobulin (BMG), N-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG), 手術侵襲, 術後合併症

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