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日外会誌. 90(6): 941-948, 1989


原著

吸収性縫合糸を用いた血管吻合
ー吻合部治癒過程にみられる縫合糸の影響ー

旭川医科大学 第1外科

直江 綾子

(1988年6月14日受付)

I.内容要旨
吸収性編糸Polyglycolic acid糸(PGA),及び吸収性単糸Polydioxanone糸(PDS)を用いて代用血管移植を行い血管吻合部治癒に対する縫合糸の影響と役割について基礎的,臨床的に検討した.基礎検討:雑成犬78頭の腹部大動脈に代用血管,(自家頸静脈,Dardik Biograft,ePTFE,velour knitted Dacron)を移植した.吻合の一側にPGAもしくはPDSを用い,他側には対照として非吸収性縫合糸polypropylene糸(PP)を用いた.最長24ヵ月まで観察し,各吻合部の肉眼的,組織学的な検討と吻合強度(引張強度,耐圧強度)について比較検討した.PP吻合部は糸の締めつけによる血管壁の虚血が持続し,硝子様変性や石灰化などの不可逆的退行変性を生じて治癒障害を来たした.これに対しPGA及びPDS吻合部は糸の吸収が進むにつれ,血管壁の圧迫,循環障害が緩和し,吻合形状が層々接合へ自然修正されて良好に治癒した.吸収糸を用いた吻合部は少なくとも移植後1ヵ月までに生体血圧に十分耐える強度を獲得し,移植12ヵ月後では内径6mmの吻合部が1,000mmHgの瞬間内圧負荷に耐え得る事が示された.臨床検討:下肢閉塞性動脈硬化症17例,Buerger病9例,小児腎血管性高血圧症1例,腫瘍の鎖骨下静脈浸潤1例の合計34バイパス,55吻合に対しPGA及びPDSを使用した.最長39ヵ月間の観察期間中,吻合部の拡張,仮性動脈瘤,破裂等の合併症を生じなかった.
血管吻合部は吸収糸の使用により極めて良好な治癒が得られ,強度についても移植早期を除くと新生外膜がその大部分を担い縫合糸がほとんど関与しないと判断された事から,小児または6mm以下の血管吻合に吸収糸の使用が勧められる.PDSは組織通過性が良い単糸構造であり,抗張力消失速度が緩徐で安定している点で現時点では最も血管吻合に適した材料と考えられた.

キーワード
吸収性縫合糸, 血管吻合, polydioxanone, polyglycolic acid, 小動脈再建


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