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日外会誌. 90(6): 920-927, 1989


原著

乳癌組織における Aromatase および Estrone sulfatase 活性よりみた estrogen 局所産生に関する研究

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

内海 俊明

(1988年8月1日受付)

I.内容要旨
乳癌に対するestrogen局所産生の抑制を通した内分泌療法の基礎的検討のために,乳癌組織,乳腺組織,乳房脂肪織におけるaromataseおよびestrone sulfataseの活性を測定した.
乳癌患者28例より得た乳癌組織,非癌部乳腺,乳房脂肪織および良性乳腺疾患患者8例より得た良性乳腺疾患組織を対象とした.
各組織をリン酸緩衝液にてホモジェネートし,乳癌組織乳腺組織ではsupernatantを乳房脂肪織ではsubnatantを酵素源として用いた.
aromatase活性は(1β-3H)androstenedioneを基質としたtritium water release assayにて測定し,estrone sulfatase活性は(6, 7-3H)estrone-3-sulfateを基質とし生成される(6, 7-3H)estroneを測定することにより求めた.aromatase活性は乳癌組織で25.1±12.4fmol/mg protein/h(以下fmolと略す)(n=27),非癌部乳腺で11.0+6.1fmol(n=16),乳房脂肪織で9.3±10.0fmol(n=27),良性乳腺疾患組織で7.7±5.5fmol(n=8)であった.また,estrone sulfatase活性は乳癌組織で4.0±3.5nmol/mg protein/h(以下nmolと略す)(n=19),非癌部乳腺で0.2±0.3nmol(n=11),良性乳腺疾患組織で0.6±1.7nmol(n=8)であった.乳癌組織のaromatase活性は同一症例の非癌部乳腺,乳房脂肪織より有意に高く,良性乳腺疾患組織に比しても有意に高かった(p<0.001).estrone sulfatase活性も同様の傾向があり,乳癌組織において同一症例の非癌部乳腺あるいは良性乳腺疾患組織に比し有意に高値を示した(p<0.02,p<0.01).
これらの結果は乳癌組織におけるaromataseあるいはestrone sulfataseを介するestrogen局所産生が周囲組織より高いことを示している.このことは両酵素を介する乳癌組織でのestrogen局所産生を抑制する内分泌療法の可能性を示しており,両酵素活性の測定値がその適応の指標となりうると考えられた.

キーワード
乳癌, estrogen 局所産生, aromatase, estrone sulfatase, 乳癌内分泌療法


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