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日外会誌. 90(6): 874-885, 1989


原著

門脈圧亢進症における遠肝性側副血行が肺血管に及ぼす病変に関する実験的検討

広島大学 医学部外科学第1教室(主任:松浦雄一郎教授)(指導:横山 隆教授)

檜山 英三

(1988年7月18日受付)

I.内容要旨
門脈圧亢進症患者に肺高血圧症を合併する頻度が有意に高いことが指摘されている.肺高血圧症を合併した門脈圧亢進症症例を検討すると遠肝性側副血行が発達している症例が多い.そこで肺高血圧症の成因として遠肝性側副血行が関与している可能性が大きいと考え,ラットに門脈下大静脈シャントを作製し,長期に飼育して門脈下大静脈シャントが肺血行動態及び肺病理組織にいかなる影響を及ぼすかについて検討した.ラットに門脈と下大静脈を径3mmで側々吻合し1~24ヵ月飼育した.その結果,肺動脈収縮期圧を反映する右室収縮期圧(RVSP)は飼育期間が3ヵ月以上で長期に飼育するほど有意に上昇し,右室自由壁の厚さ(RVW)も同様に有意に肥厚した.シャント率(S率)は51Crmicrosphereを門脈より注入して肝と肺のuptake量から算出したが,S率が大であるほどRVSP,RVWは有意に上昇した.摘出した肺の病理学的な検討では,Heath-Edwards分類のI~IV度の所見を認め,RVSPの高いほど高度の病変が認められた.以上から,その成因として門脈血が門脈系から下大静脈に直接流入する為に肝で処理されるべき何等かの物質が肺に作用して肺高血圧類似病変を招来した可能性が大であると考え,その成因に関与する物質を検索した.中心静脈(右室)血中のhistamine,serotonine,endotoxinを測定したところ,endotoxinが上昇しているラットが多く,RVSP及びS率と有意に相関した.また,肺静脈(左室)血中Tromboxane B2,6-keto PGFを測定しRVSPとの相関を検討すると前者が有意に正の,後者が有意に負の相関を認めた.以上の結果から,ラットにおいて門脈系と下大静脈系のシャントが長期に存在すれば,肺高血圧類似病変が惹起されたことが証明された.その成因に,門脈血中のendotoxinが肝で処理されずに直接下大静脈に流入して肺に作用し,且つ肺内でのTromboxane A2の上昇とPGI2の低下が関与していることが推察された.

キーワード
門脈圧亢進症, 肺血行動態, 肺高血圧, 遠肝性側副血行路, Eck 瘻

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