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日外会誌. 90(6): 855-862, 1989


原著

鈍的肝外傷に対する超音波診断 : その臨床的意義に関する研究

大阪大学 救急医学

田中 裕 , 杉本 寿 , 吉岡 敏治 , 杉本 侃

(1988年4月25日受付)

I.内容要旨
鈍的肝外傷に対する超音波診断(US)の臨床的意義に関して研究を行った.昭和53年8月から昭和62年8月に入院治療した鈍的肝外傷患者65例を対象とした.患者をUS導入前の30例と導入後の35例に分け,その前後における診断,手術適応の変化について比較した.その結果
1.US導入前では保存的治療を施行した症例は5/30(16.7%)であるのに対して,導入後は17/35(48.5%)と大幅に増加した.
2.損傷形態でみると,中心性破裂,真喜屋のIII型では治療上の変化はなかった.しかし真喜屋のI,II型では保存的治療例がUS導入前の1例から導入後は7例と増加し,逆に手術例が21例から12例に減少した.
3.早期のvital signでみると導入前ではvital signの不安定な17例は全例手術を施行しており,安定している13例でも腹腔穿刺が陽性の4例は手術をした.これに対して導入後は,安定している15例のうち,腹腔内合併損傷のある2例を除いて全例保存的治療を施行した.また不安定な20例でも4例は保存的治療が可能であった.
さらにUS検査とCT検査を比較した結果,
4.US検査は来院早期の治療方針を決定する手段となったが,CT検査はならなかった.
5.US検査で肝損傷部は高(等)エコー域から混合エコー域,そして低エコー域と変化し縮小していき,損傷部の質的量的変化が追跡可能であった.またCT検査ではlow density areaとしと縮小していくことが明らかとなった.
以上の結果より,US導入後保存的治療症例が増加した理由として,来院早期に行えるUS診断で,開腹判断に必要な腹腔内出血量の評価が可能となり,unnecessary laparotomyが減少したこと,さらにvital signの不安定な場合でも主な出血源が腹腔内か他部位かの判断が可能となったことが考えられた.さらにUS診断で損傷部の量的,質的診断が可能となり,肝外傷後期の肝内血腫も自然縮小することが確認できるようになったことも保存例増加に寄与したと結論した.

キーワード
鈍的肝外傷, 超音波診断, 腹腔内出血, 肝内血腫, 保存的治療


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