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日外会誌. 90(6): 847-854, 1989


原著

犬保存肝移植に伴う血液凝固異常の解析

大阪大学 医学部第2外科学教室(主任:森 武貞教授)

鈴村 信彦

(1988年4月11日受付)

I.内容要旨
肝移植においては大量出血を伴うことが多い.この大量出血は移植肝が傷害されているほど血流再開直後特に顕著となる.この時期には血小板の減少と,凝固と線溶の亢進が指摘されているが,その原因に関する検討は殆ど行われていない.本研究では,移植肝血流再開直後の血液凝固異常の病態を明らかにすることを目的とした.
実験は雑種成犬を用いて以下のごとく行った.①Cuff法を用いて新鮮肝,及び24時間保存肝移植を行い,止血機能をモニターした.②新鮮肝,24時間保存肝,48時間保存肝の灌流液を正常犬に点滴静注し,止血機能をモニターした.③新鮮肝及び保存肝灌流液中に遊出してくる血小板凝集,plasminogen activator(PA),tissue thromboplastin(F-III)活性について検討した.
各々の結果は以下のごとくである.①保存肝移植では新鮮肝移植で見られない血液凝固異常が惹起された.②保存肝の灌流液の点滴静注では保存肝移植と同様の血液凝固異常が誘発された.③保存肝の灌流液中には,血小板凝集に対する直接作用活性は測定されなかった.PA活性は一部に測定されたが低値であった.F-III活性は,新鮮肝では1.09±0.24μg/ml(N=4),24時間保存肝では1.94±1.06µg/ml(N=5),48時間保存肝では4.13±0.47μg/ml(N=4)であり保存時間が長いほど上昇傾向を示し,かつ48時間保存群は他の2群に比し有意に高値を示した(p<0.01).
以上より,保存時間が長くなり肝傷害が進行するにつれ,F-III活性物質が肝より放出されることが明らかとなった.移植肝血流再開直後の血液凝固異常は,このF-IIIが血液凝固の外因系を賦活することが引き金となり,血液凝固因子の消耗と二次線溶の亢進,及び血小板の凝集を惹起することがその病態に大きく関与していると考えられた.

キーワード
肝移植, 血液凝固異常, DIC, 組織トロンボプラスチン, 合成基質

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