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日外会誌. 90(6): 810-818, 1989


原著

術後血漿フィブロネクチンの変動とその意義

東京医科歯科大学 医学部第2外科学教室(指導:三島好雄教授)

西村 久嗣

(1988年6月30日受付)

I.内容要旨
外科手術をうけた36例の患者を対象として,血漿Fibronectin(PFN)の術後変動を調べた.
同時にPFNの術後変動の意義を検討するために,凝固・線溶系よりAntithrombin III(AT-III),α2-Plasmin inhibitor(α2-Pl),Factor XIIIを,acute phase reactantよりα1-Acid-glycoprotein(α1-AG),α1-Antitrypsin(α1-AT),Haptoglobinを,栄養状態の指標になるといわれている糖蛋白よりTransferrin(Tf),Retinol binding protein(RBP),Pre-albumin(pre-Alb)を,またPFNの術後opsonin効果を検討するために補体系よりC3,C4,CH50を,免疫グロブリン系よりIgG,IgM,IgAをパラメーターとして選び測定した.
つぎにWistar系ratを用いて,絶食群,貧血群,単開腹群,イレウス群,脾摘群,腹膜炎群を作製しPFNの変動をみるとともに,opsonin cofactorといわれているheparinの少量投与群と無投与群に分け,PFNの変動を比較検討し以下の結論を得た.
1.術前のPFNは男性と女性,良性と悪性,60歳以上と未満ではいずれも有意差を認めなかった.
2.PFNは術前値と比較し術後第1,3病日は有意に(p<0.001)低値を示した.
3.術中出血量が1,000ml以上と未満,手術時間が3時間以上と未満の症例の術後第1病日のPFN値には有意の差を認めた(p<0.001).
4.PFNの術後変動をみるに補体,免疫グロブリン系との間に相関関係は認められなかったが,AT-III,α2-Pl,Factor XIII,RBP,Tfとは有意な相関関係が認められた.
5.様々な実験モデルを作製したratにおいてheparin少量投与群と無投与群のPFN値の変動を検討したが両者間に差は認められなかった.
以上よりPFNの術後変動はopsonin効果の判定指標というよりも,AT-III,α2-P1,Factor XIIIおよびRBP,Tfなどと類似した変動を示すことから,凝固・線溶系の糖蛋白およびrapid turnoverproteinの指標となることが示唆された.

キーワード
血漿 fibronectin (cold insoluble globulin), 術後変動, opsonin 効果, 凝固・線溶系の糖蛋白, rapid turnover protein

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