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日外会誌. 90(5): 726-735, 1989


原著

閉塞性黄疸肝における胆管上皮細胞細胞膜の電顕組織化学的変化

日本医科大学第2病院 外科
日本医科大学 第2病理学教室

原 亨

(1988年7月4日受付)

I.内容要旨
閉塞性黄疸症例における減黄術後の黄疸遷延の機序の解明を目的として,実験的にラットの総胆管結紮後の血清直接ビリルビン,血清alkaline phosphatase(ALPase)値を測定し,黄疸肝および閉塞解除後の胆管上皮細胞膜の形態学的変化を検索すると共に,電顕組織化学的に細胞膜表面のglycocalyxの性状およびALPase,Na,K-ATPase等の酵素の局在様式について検討した.血清ALPase値は直接ビリルビンの上昇より遅れて,黄疸2週群より上昇がみられた.形態学的に毛細胆管および細胆管の管腔側細胞膜に微絨毛の減少,blebの形成という特異な変化を認め,細胞膜下細胞質内にmicro創amentの集塊を認めた.閉塞解除群では毛細胆管の形態変化に回復がみられたが,黄疸2週閉塞解除2週群(2週解除群)の細胆管では黄疸群の形態学的変化が残存していた.組織化学的には対照群でruthenium red(RR)陽性のglycocalyxは毛細胆管と細胆管の管腔側細胞膜にみられ,黄疸群ではRRの反応産物は減少していた.一方,閉塞解除群では毛細胆管において対照群と類似し豊富な局在がみられたが,細胆管では2週解除群に黄疸群と同様のRRの反応産物の減少がみられた.ALPaseは対照群においては毛細胆管に局在するが,黄疸肝では肝細胞の全周細胞膜縁に局在がみられ,極性に変化を認めた.閉塞解除群の細胆管では,2週解除群で黄疸群と同様にALPaseの不均一な局在分布がみられた.Na,K-ATKaseは細胆管の管腔側細胞膜に局在を認め,黄疸群ではその局在様式が不均一となり,2週解除群にも同様の変化が認められた.以上より,黄疸肝において毛細胆管と細胆管で胆管上皮細胞膜のVulnerabilityに差異を認め異なる分子構造変化がみられ,細胆管では閉塞解除後にもこれらの変化が不可逆性変化として残存することが明らかとされた.このことが閉塞性黄疸症例に対する減黄術後もしぼしば見られる黄疸遷延の一因をなしているものと考える.

キーワード
閉塞性黄疸, 胆管上皮細胞膜, Ruthenium red (RR), Alkaline phosphatase (ALPase), Na, K-ATPase


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