[書誌情報] [全文PDF] (1368KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 90(5): 712-720, 1989


原著

総肝動脈切離後の側副血行による血流について
ー動物実験による検討ー

東京大学 医学部第2外科(主任:出月康夫教授)

飯塚 一郎

(1988年5月17日受付)

I.内容要旨
総肝動脈を切離したイヌをAppleby手術の血行動態モデルとして,同手術後の総肝動脈流域臓器の虚血の程度と推移を検討した.測定は,固有肝動脈血流量(電磁流量計),肝および肝嚢壁の組織血流(水素ガスクリアランス法),総肝動脈肝臓側断端圧について行った.総肝動脈切離直後の変化,胃十二指腸動脈遮断の追加の影響を検討,更に,7日間にわたる経時的測定,観察を行った.
(1)総肝動脈の切離により固有肝動脈血流量は,切離前の値に対する比で0.40±0.18(n=14),肝組織血流は,同じく0.61±0.16(n=27),胆嚢壁組織血流は,同じく0.51±0.16(n=40)となった.
(2)胃十二指腸動脈の遮断の追加により,肝組織血流は,総肝動脈切離前の値に対する比で,0.51±0.17(n=23),胆嚢壁組織血流は同じく0.23±0.13(n=23)となった.
(3)総肝動脈の切離前の側圧は,大腿動脈圧に対する比で,1.07±0.01,切離後の肝臓側断端圧は,同じく0.33±0.10,更に胃十二指腸動脈の遮断の追加により0.10±0.06(n=7)となった.
(4)総肝動脈切離7日後,胆嚢壁組織血流は,平均,切離前の値の84%まで回復したほか,他の血流諸測定値も急速な回復を示した.
(5)経時的観察例に,血清GOT高値例と,胆嚢壊死例(20%に発生)が観察された.いずれも血流諸測定値とは明らかな関連を見出し得なかった.一方,胆嚢壊死例は,GOT高値例に多発する傾向を認めた.
以上の結果は,Appleby手術を可能としている,胃十二指腸動脈を中心とする側副血行による血流の維持と回復の現象を示すと考えられた.胆嚢血流の減少が大きい点からみても,胆嚢壊死の予防には十分留意すべきことが示されたが,その発生については,単に血流量のみでは説明できない発生要因の存在が推定された.

キーワード
総肝動脈切離, 側副血行, 肝血流, 胆囊血流, 胆囊壊死

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。